短編小説。ある日、恵三は、本屋で楽譜を探していた。そして、帰ろうとすると雨が降ってきて、本屋の軒先で雨宿りすることになる。そこで雨宿りする女性に話しかけられ、となりのカフェに行くことになるのだが、、、、
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7月初旬の夕方、恵三は神田の本屋に来ていた。というのも、ラジオで流れていた曲の28小節目のコードが一箇所だけ、わからずにいたからだ。
恵三は家で時間があるといつも、鍵盤に手をのせ、気に入った曲を聴いては、耳を頼りに音を探すのだった。まるで光のない洞窟をさまよい歩き、何かを探り当てるかのように。そして、探り当てたら、メロディーとコードを、あ〜でも無い、こ〜でも無いと試行錯誤しながら、譜面に起こすのを楽しんでいた。
今回も、本屋の3Fの楽譜コーナーで、その曲の譜面を探しに来たのだった。
「あった、あった。これ、この曲。」恵三はあっという間に楽譜を探し出し唸った。「なるほど、こんなコードを使ってたんだ。あ〜そうか。でもなぁ、このコードだと理論上、不整合なんだけどなぁ。ただ楽曲の全体、大きな流れをみると調和しているということかぁ。昔の曲だし、アレンジが古いのかなぁ。まあいいや。」
ほんの数分で目的を達した恵三は、階段を足早に、そして、リズミカルに軽やかに降りていった。恵三の頭の中では、ダブルベースの低音が4ビートでウォーキングしていた。
1Fの入り口近くにいくと、ガラス越しに雨が降っているのがわかった。かなり激しく降っていた。「かなり強めの雨だなぁ。さっきまで降っていなかったのに。まあいいや。少し待って、様子を見てみるか。」恵三はそのように思い、本屋の軒先で雨宿りすることにした。
軒先では、すでに雨宿りするひとりの女性がいた。その女性はというと、なんとなく雰囲気があり、どことなくなまめかしさを漂わせていた。モスグリーンのワンピースに茶色のベルト、黒のパンプスを履いていた。
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Cafe Phrygia (Japanese Edition)
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