初の連載小説にしてほんわかしたお伽話『フックフックのエビネルさんとトッカトッカのカニエスさん』。
物語はそのままに、新たに描き下ろしの挿し絵を加えた電子書籍版です。また、本文中から劇中歌へのリンクを組み込んでいますので、BGMとして聴きながらお楽しみください(Kindle Paperwhiteなどの読書専用端末ではお聴きになれません)。
──ものがたり──
フックフックの国に住むエビネルさんは仕立て屋の見習いで、トッカトッカの国に住むカニエスさんはきこりの見習いです。ある日、エックエックの偉大な王様が、こんなおふれを出しました。
「《世界で一番勇気のある若者》を、美しいお姫様のむことして迎える」
というのです。
エビネルさんとカニエスさんはそれぞれの理由で、勇気を手に入れるための旅に出発したのでした。
さて、二人は勇気ってやつを手に入れることができるでしょうか。そして、美しいお姫様を射止めるのは──?
WEBブラウザ上で読書端末のように読めるBiB/iを採用した試し読みページが作品ページ(awa.newday-newlife.com)にございます(古いPCでも読めるPDF版もあります)
劇中歌やテーマ曲もこちらでお聴きになれますので、是非おいでくださいね!
■■■ 立ち読みコーナー(電子書籍では全漢字にルビを振っています)■■■
1
フックフックの国に住んでいるエビネルさんはやせっちょで、お酒が大好き。トッカトッカの国に住んでいるカニエスさんは太っちょだけど、お酒はぜんぜん飲みません。いいえ、飲めないんです。だからなのか、やせっちょエビネルさんのお腹は出ていて、太っちょカニエスさんのお腹はぜーんぜん出ていないのです。
エビネルさんは仕立て屋の見習いで、毎日毎日美しい生地にアイロンをかけたり、服のほころびを縫い直したりして、暮らしていました。店のご主人は、お金持ちのご婦人方といつも楽しそうにおしゃれの話をしていたけれど、お給金の少ないエビネルさんは、余った生地を上手に組み合わせて使い、自分で縫った服ばかりを着ていたのです。エビネルさんはいつもいつも、楽しそうに話すご婦人方とご主人を見て、思っていたのです。ぼくもいつか自分のお店を持って、ご主人と呼ばれるようになるんだ、って。
あるとき遠い遠いエックエックの国のえらい王様が、世界中に向けておふれを出しました。
「美しい姫のおむこさんを探しているのだが、世界で一番勇気のある若者は、誰か?」と──。
フックフックのエビネルさんは、その話をリンダおばさんから聞きました。そのとき、おばさんはこう言ったのです。
「あんたのようなやせの大酒飲みは、決してお姫様のおメガネにかなうものかい」って。
それを聞いたエビネルさんは言いました。
「でもおばさん、王様はお酒のことをおっしゃってはいないじゃありませんか。ぼくはお酒が大好きだけど、それでひとさまに迷惑をかけたりなんかしない。だから勇気ってやつを示すことができたなら、ぼくにもきっと、お姫様と結婚する権利があるはずですよ」
おばさんは面白くなさそうに顔をしかめました。
「じゃあ、行ってみるがいいさ、あんたのようなくだらない男に、勇気の意味が分かるものかね!」
おばさんは、ケタケタといやらしい笑い声を立てて行ってしまいました。

2
トッカトッカのカニエスさんは、きこりの見習いです。親方を見習って真面目に修行を重ねていましたが、とっても臆病な性格で、キツネの鳴き声にも飛び上がって驚くようなありさまでした。毎日毎日木を切って、筋骨隆々の体なのにおかしいですね──カニエスさんは筋骨隆々なんじゃなくて、ただの太っちょさ、という人も多かったのですが──。
そのカニエスさんは、エビネルさんと同じ話をプルースおじさんから聞きました。
「お前さんよう、エックエックの王様を知ってるでな?」
「うん、知ってるともさ。うんときれいなお姫様がいるって話を聞いたことがあるよ」
「おう、それだそれだ。そのお姫さんのよう、おむこさんを探しているんだと」
「お姫様のムコって言ったら、王子様だろう? いいなあ王子様は、黙っていたって、お姫様がお相手なんだものなあ」
「それがよう、カニエス。ちがうんだと」
「ちがうって何がさ」
「王様が探してなさるのは王子様じゃあねえ、世界で一番勇気のある若者だってえ話さ」
「勇気かい、そりゃあぼくにはちっともないものだなあ」
カニエスさんは夢見るように青いお空を眺めました。雪のように真っ白い雲が、ふんわりと空を泳いでいました。
「最初からそんなこと決めるもんじゃあねえさ。なあ、カニエス、考えてもみな、お姫様と結婚すりゃあ、やがてはお前が王様だぞ」
カニエスさんはプルースおじさんのそんな言葉には耳をかさず、ただただお空の白い雲を眺めていました。
「ボンヤリしてねえで、おじさんにも夢の一つくらい見させてくれたらどうだね、カニエスよう。まさかお前、親のいないお前をここまで育ててやった恩を忘れちまったんじゃあるまいな」
プルースおじさんは、あきれたような怒ったような顔つきで、空の雲を見上げました。すると、どうしたことでしょう、真っ白だった雲が、しだいしだいに黒っぽい色に濁ったと思ったら、ばさりばさりと音が響いて、大きな大きなカラスが雲の中から飛び出してきたのです。
3
大カラスはまるで二人のことを知っているように、目の前に舞い降りました。そしてくるりと体を回転させたのです。すると、あれあれ、と目を丸くしている二人の目の前で、大カラスの羽の中からおばあさんの姿が現われたのでした。いいえ、大カラスだと思ったのは、おばあさんの羽織る真っ黒いマントだったのです。くちばしに見えたのは、つばのとがった大きな帽子でした。
真っ黒ずくめのおばあさんが言いました。
「あんたたち、勇気を手に入れたいと話していたね」
「いいえ、そんなことはありません。ぼくは勇気になんてこれっぽっちも興味がないし、欲しいとも思わないんですから」
カニエスさんはプルースおじさんをちょっとだけ盗み見ながらも、はっきりと言いました。
「困ったおいっ子でさあ。このカニエスにちっとでも勇気があったなら、おれも苦労をせずにすむものをなあ!」
プルースおじさんは大げさな身ぶりで、おばあさんに言いました。
「ぼくだって本当の本当は……」カニエスさんはもじもじしながらも、言いました。「ちょっとばかりの勇気があったらいいかもなって、思うことはありますよ。でもね、それは無理な相談なんです。ぼく、山で木を切っていたって、何かちょっと動くものがいたりするだけで、心臓が止まるくらいにビックリしちゃうんですから」
「こらこら止めんか、カニエスよ。ますますもってみっともないったらありゃあしないよ」
おばあさんは二人の様子をいらいらしながら見守っていました。
「でもね、おじさん、ぼくはね……」
「えーい、いくじのない男だ!」
そんな二人に、おばあさんはしびれを切らして言いました。
「それで、どうしたいんだい? ちょっとの勇気でも欲しいってんなら、聞かないでもないんだよ」
「本当かい、おばあさん」
プルースおじさんの表情がゆるみました。
「ぼくはいいよおじさん。このまんまで満足なんだから」
「そんなもんで満足だなんて、どの口で言うかね! 何でもいい、おばあさんや、どうか、この臆病カニエスに勇気を与えてはくれまいか」
4
おばあさんは返事をしませんでしたが、目を閉じて、なにやら口の中でもごもごとしゃべっているように見えました。しばらくするとおばあさんは急にカッと両目を見開き、ふところにしまっていた杖を取り出すと、いったん青い空にかざしてから、その先で地面を激しくたたきました。
ずんっ。
そんな音がして、おばあさんが杖で叩いた地面がひび割れました。
「な、な、何をするんだい!」
プルースおじさんがとびのきます。あんまりびっくりしたカニエスさんは、その場にしゃがみこんでしまいました。
「驚いてないで、ここを見るんだよ、二人とも!」
おばあさんの声は、それまでとはちがい、とても迫力がありました。二人は、おばあさんの声の先を見ます。杖が刺さった地面には、四方八方にひび割れが走っています。でも二人はそれがなんのことだかは分からずに、顔を見合わせました。
「これが、あんたの行く先さ」
「え?」
おばあさんの言葉に、カニエスさんがほうけた顔をします。その後また黙ってしまったおばあさんの視線を追うと、杖の刺さったあたりから、じわじわと水がしみ出ているではありませんか。そしてその水が、地面に広がるひび割れのうちの一本を、すーっと流れていったのです。
「ふーむ」
プルースおじさんが握り拳であごひげをさすりながら、考えこんでいます。
「こりゃあ、ユッポユッポの国だな。な、おばあさん、そうだろう?」
「おお、そうさ、その通り。あんたのおいっ子は、ユッポユッポの国で勇気を手に入れなさるだろうね」
「おい、聞いたか、カニエス!」
プルースおじさんはとっても嬉しそうです。だって、ユッポユッポの国まで行けば、臆病なカニエスさんが勇気を手に入れられるって、いうのだから!
(続きは電子書籍でどうぞ!)
2016.4.18 ルビの間違いを二箇所修正いたしました。
物語はそのままに、新たに描き下ろしの挿し絵を加えた電子書籍版です。また、本文中から劇中歌へのリンクを組み込んでいますので、BGMとして聴きながらお楽しみください(Kindle Paperwhiteなどの読書専用端末ではお聴きになれません)。
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フックフックの国に住むエビネルさんは仕立て屋の見習いで、トッカトッカの国に住むカニエスさんはきこりの見習いです。ある日、エックエックの偉大な王様が、こんなおふれを出しました。
「《世界で一番勇気のある若者》を、美しいお姫様のむことして迎える」
というのです。
エビネルさんとカニエスさんはそれぞれの理由で、勇気を手に入れるための旅に出発したのでした。
さて、二人は勇気ってやつを手に入れることができるでしょうか。そして、美しいお姫様を射止めるのは──?
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1
フックフックの国に住んでいるエビネルさんはやせっちょで、お酒が大好き。トッカトッカの国に住んでいるカニエスさんは太っちょだけど、お酒はぜんぜん飲みません。いいえ、飲めないんです。だからなのか、やせっちょエビネルさんのお腹は出ていて、太っちょカニエスさんのお腹はぜーんぜん出ていないのです。
エビネルさんは仕立て屋の見習いで、毎日毎日美しい生地にアイロンをかけたり、服のほころびを縫い直したりして、暮らしていました。店のご主人は、お金持ちのご婦人方といつも楽しそうにおしゃれの話をしていたけれど、お給金の少ないエビネルさんは、余った生地を上手に組み合わせて使い、自分で縫った服ばかりを着ていたのです。エビネルさんはいつもいつも、楽しそうに話すご婦人方とご主人を見て、思っていたのです。ぼくもいつか自分のお店を持って、ご主人と呼ばれるようになるんだ、って。
あるとき遠い遠いエックエックの国のえらい王様が、世界中に向けておふれを出しました。
「美しい姫のおむこさんを探しているのだが、世界で一番勇気のある若者は、誰か?」と──。
フックフックのエビネルさんは、その話をリンダおばさんから聞きました。そのとき、おばさんはこう言ったのです。
「あんたのようなやせの大酒飲みは、決してお姫様のおメガネにかなうものかい」って。
それを聞いたエビネルさんは言いました。
「でもおばさん、王様はお酒のことをおっしゃってはいないじゃありませんか。ぼくはお酒が大好きだけど、それでひとさまに迷惑をかけたりなんかしない。だから勇気ってやつを示すことができたなら、ぼくにもきっと、お姫様と結婚する権利があるはずですよ」
おばさんは面白くなさそうに顔をしかめました。
「じゃあ、行ってみるがいいさ、あんたのようなくだらない男に、勇気の意味が分かるものかね!」
おばさんは、ケタケタといやらしい笑い声を立てて行ってしまいました。

2
トッカトッカのカニエスさんは、きこりの見習いです。親方を見習って真面目に修行を重ねていましたが、とっても臆病な性格で、キツネの鳴き声にも飛び上がって驚くようなありさまでした。毎日毎日木を切って、筋骨隆々の体なのにおかしいですね──カニエスさんは筋骨隆々なんじゃなくて、ただの太っちょさ、という人も多かったのですが──。
そのカニエスさんは、エビネルさんと同じ話をプルースおじさんから聞きました。
「お前さんよう、エックエックの王様を知ってるでな?」
「うん、知ってるともさ。うんときれいなお姫様がいるって話を聞いたことがあるよ」
「おう、それだそれだ。そのお姫さんのよう、おむこさんを探しているんだと」
「お姫様のムコって言ったら、王子様だろう? いいなあ王子様は、黙っていたって、お姫様がお相手なんだものなあ」
「それがよう、カニエス。ちがうんだと」
「ちがうって何がさ」
「王様が探してなさるのは王子様じゃあねえ、世界で一番勇気のある若者だってえ話さ」
「勇気かい、そりゃあぼくにはちっともないものだなあ」
カニエスさんは夢見るように青いお空を眺めました。雪のように真っ白い雲が、ふんわりと空を泳いでいました。
「最初からそんなこと決めるもんじゃあねえさ。なあ、カニエス、考えてもみな、お姫様と結婚すりゃあ、やがてはお前が王様だぞ」
カニエスさんはプルースおじさんのそんな言葉には耳をかさず、ただただお空の白い雲を眺めていました。
「ボンヤリしてねえで、おじさんにも夢の一つくらい見させてくれたらどうだね、カニエスよう。まさかお前、親のいないお前をここまで育ててやった恩を忘れちまったんじゃあるまいな」
プルースおじさんは、あきれたような怒ったような顔つきで、空の雲を見上げました。すると、どうしたことでしょう、真っ白だった雲が、しだいしだいに黒っぽい色に濁ったと思ったら、ばさりばさりと音が響いて、大きな大きなカラスが雲の中から飛び出してきたのです。
3
大カラスはまるで二人のことを知っているように、目の前に舞い降りました。そしてくるりと体を回転させたのです。すると、あれあれ、と目を丸くしている二人の目の前で、大カラスの羽の中からおばあさんの姿が現われたのでした。いいえ、大カラスだと思ったのは、おばあさんの羽織る真っ黒いマントだったのです。くちばしに見えたのは、つばのとがった大きな帽子でした。
真っ黒ずくめのおばあさんが言いました。
「あんたたち、勇気を手に入れたいと話していたね」
「いいえ、そんなことはありません。ぼくは勇気になんてこれっぽっちも興味がないし、欲しいとも思わないんですから」
カニエスさんはプルースおじさんをちょっとだけ盗み見ながらも、はっきりと言いました。
「困ったおいっ子でさあ。このカニエスにちっとでも勇気があったなら、おれも苦労をせずにすむものをなあ!」
プルースおじさんは大げさな身ぶりで、おばあさんに言いました。
「ぼくだって本当の本当は……」カニエスさんはもじもじしながらも、言いました。「ちょっとばかりの勇気があったらいいかもなって、思うことはありますよ。でもね、それは無理な相談なんです。ぼく、山で木を切っていたって、何かちょっと動くものがいたりするだけで、心臓が止まるくらいにビックリしちゃうんですから」
「こらこら止めんか、カニエスよ。ますますもってみっともないったらありゃあしないよ」
おばあさんは二人の様子をいらいらしながら見守っていました。
「でもね、おじさん、ぼくはね……」
「えーい、いくじのない男だ!」
そんな二人に、おばあさんはしびれを切らして言いました。
「それで、どうしたいんだい? ちょっとの勇気でも欲しいってんなら、聞かないでもないんだよ」
「本当かい、おばあさん」
プルースおじさんの表情がゆるみました。
「ぼくはいいよおじさん。このまんまで満足なんだから」
「そんなもんで満足だなんて、どの口で言うかね! 何でもいい、おばあさんや、どうか、この臆病カニエスに勇気を与えてはくれまいか」
4
おばあさんは返事をしませんでしたが、目を閉じて、なにやら口の中でもごもごとしゃべっているように見えました。しばらくするとおばあさんは急にカッと両目を見開き、ふところにしまっていた杖を取り出すと、いったん青い空にかざしてから、その先で地面を激しくたたきました。
ずんっ。
そんな音がして、おばあさんが杖で叩いた地面がひび割れました。
「な、な、何をするんだい!」
プルースおじさんがとびのきます。あんまりびっくりしたカニエスさんは、その場にしゃがみこんでしまいました。
「驚いてないで、ここを見るんだよ、二人とも!」
おばあさんの声は、それまでとはちがい、とても迫力がありました。二人は、おばあさんの声の先を見ます。杖が刺さった地面には、四方八方にひび割れが走っています。でも二人はそれがなんのことだかは分からずに、顔を見合わせました。
「これが、あんたの行く先さ」
「え?」
おばあさんの言葉に、カニエスさんがほうけた顔をします。その後また黙ってしまったおばあさんの視線を追うと、杖の刺さったあたりから、じわじわと水がしみ出ているではありませんか。そしてその水が、地面に広がるひび割れのうちの一本を、すーっと流れていったのです。
「ふーむ」
プルースおじさんが握り拳であごひげをさすりながら、考えこんでいます。
「こりゃあ、ユッポユッポの国だな。な、おばあさん、そうだろう?」
「おお、そうさ、その通り。あんたのおいっ子は、ユッポユッポの国で勇気を手に入れなさるだろうね」
「おい、聞いたか、カニエス!」
プルースおじさんはとっても嬉しそうです。だって、ユッポユッポの国まで行けば、臆病なカニエスさんが勇気を手に入れられるって、いうのだから!
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2016.4.18 ルビの間違いを二箇所修正いたしました。