Oyayubi no Maria (Japanese Edition)

　安井洵子は、交通事故で記憶喪失になった新井和雄と親しく付き合うようになった。もとはといえば、彼女が一枚の絵、『悲しみの聖母』（カルロ・ドルチ作）のマリアによく似ていたので、父の浩二が上野近辺で見かけた彼女に、声をかけたのがことの始まりだった。
　ある日、洵子は図書館で新井白石の『西洋紀聞』（せいようきぶん）という本を手にしたとき、獄死したイタリア人のシドッティ神父の存在を知った。一方、和雄は父の浩二と共に、夢の中でなんと江戸時代までワープし、与之助という浮世絵師の情報を得た。彼は、白石の特命を受けてイタリアに渡った密使で、神父との関係を解くカギを握っていた。
　恂子は日本人離れした容姿のため、自分のルーツが外国にあるのではないかと密かに感じていたが、それを確かめる冒険が「一枚の絵」に導かれるようにドラマが展開されていく。彼女はシドッティ神父の過去を明らかにするため、イタリアへの旅を決心した。夏休みにシチリア島のパレルモでホームステイをしながら、恋人の和雄と共についにそのルーツを解き明かすことに成功した。
　恂子の出生ルーツを探る旅は、江戸時代の与之助という絵師の働きを織り交ぜた壮大なファンタジーであり、歴史ロマンとしても楽しめるストーリーとなっている。