恋を堰かれ、情けを破られ、縁を切られた娘の情念、およびそれに対する同情を、不思議な舞台に載せ怪しく描き出した鏡花作品の現代語訳。
【あらすじ】
春たけなわのある日、亀戸天神へ参拝した帰りに、水のぬるんだ、川沿いの通りを陽炎に纏いつかれながら来ると、どこからともなく、遠くで鳴物の音が聞こえ始めた。
「狸囃子というんだよ、昔から本所の名物さ。」「あら、嘘ばっかり。」
ちょうどそこに、美しい女と、若い紳士が居合わせて、こう言葉を交わしたのを松崎は聞き取った。
気をそそって人を寄せる、その囃子に誘われて来ると、ここにも、そこにも、ふらふらと、春の陽を中へ取り込んで、白く点したような行燈を軒に掛けた、木賃宿の並ぶ場所。
周囲とは場違いな、大きく立派な空家が一つあって、それを囲む、二間ほどの高さの古い船板塀の前に、お玉杓子が群がって押し競饅頭しているように、子どもが大勢集っていた。
そこに敷かれた、じめじめした筵の舞台で、飛んだり、跳ねたり、ばたばたばたと演じられていた子ども芝居を何気なく観始めると、先ほどの二人連れが、やはり囃子に導かれて来たらしく姿を現した。
その奇妙な芝居の中で、近頃亡くなった近所の評判娘、忘れ得ぬその娘の名を松崎は耳にする。
そして、美しい女もまた、その名に、帰りかけた足を止めたのであった。
【訳者略歴】
白水 銀雪(しろみ ぎんせつ)
慶應義塾大学大学院博士課程中退(専攻:数学)
システムエンジニア・プロジェクトマネージャー・コンサルタントとして、宇宙分野を中心とする科学技術系システム開発に従事
現在、蓼科にて山暮らし
Kageroza – Izumi Kyoka Modern Japanese Translation Series 15 (Japanese Edition)
Sobre
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