Vanuatu – Islands of Shine and Dark (Japanese Edition)

　本書はバヌアツ（ヴァヌアツ）という南太平洋の諸島独立国の４つの島への潜入記である。それは、首都ポートビラがあるエファテ島と、活発な火山活動を見せるヤスール火山のあるタンナ島、裸族がほぼ昔ながらの自給自足生活を送るペンテコスト島、そして第二次大戦中に巨大な米軍基地があったエスプリトゥサント島である。私がバヌアツを訪れた2002年にはペンテコスト島には宿泊施設はまったくといってよいほど事実上無く、私は同島でキリスト教会の１室を借りて泊まったのだった。バヌアツの公用語はビスラマ語、英語、フランス語であるが、ビスラマ語しか話さない村の酋長などとの会話は、ビスラマ語が出来る現地人ガイドを通じて著者がインタビューし、ガイドが英語に通訳して私に話すという形を取っているが、本書はそれらの英語をすべて日本語に翻訳してある。本書は、秘島の住人たちの生き様とそこに流れる特殊な時間と懐かしくも異様な感覚の物語である。四十五のエピソードからなり、それぞれのエピソードがすべて文章と写真とで構成され紹介されている。本書に書かれ描かれていることは私が見聞きし体験した通りの事実ばかりであり、フィクションは一切含まれてはいない。



本文より：
　
タンナ島で酋長に会った私は、カヴァの伝説について訊いた。
「昔々、妻をなくして悲しんでいた男が妻の墓に行ってみると、埋めた死体の女性器の部分あたりから木が生えてきていた。その木の根をかじっていたネズミがふらついて歩くのを、男は見た。彼は自分もその木の根をかじってみた。すると不思議なことに、気分が和らいで悲しみが薄れるのを感じた。こうして、島の男たちはカヴァを飲むようになっていった」 酋長は話した。
カヴァの木の根を叩きつぶしたり、すりおろしたりして清水と混ぜる。植物繊維のフィルターで濾すと、飲み物カヴァの出来上がりだ。カヴァは男だけの飲み物だ。多くの島々で女たちはカヴァを飲むのを禁じられている。
「なぜ男たちだけがカヴァを飲むのか」 私は島の女に訊いた。
「それは、カヴァが女だからよ」 女は言った。
「なぜカヴァが女なのか」 私は訊いた。
「男たちがカヴァを飲むと、女とセックスするのと同じ気持ちが味わえるからよ」 女は言った。
「なぜ男だけがカヴァを飲むことを許されているのか」 私は酋長に訊いた。
「それは、慣習法（カスタム・ロウ）で定められた村の掟なのだ」 酋長は言った。
私は、なぜ掟がそう定めているのか訊いた。
「それは、カヴァが女だからだ」 酋長は真面目に答えた。なぜカヴァが女なのかと私は訊いた。
「それは、カヴァを飲んだ晩は、男が萎えて女と交われなくなってしまうからだ」 酋長は答えた。
村の夕暮れ時にカヴァの儀式の準備は始まった。男たちは、パンダナスの葉で葺いた建物に集まった。・・・


著者略歴　　
　早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程中退。早稲田大大学院商研を学長賞受賞で修了。MBA。日本放送協会で、アフガニスタン内戦、カシミール内戦、湾岸戦争、米国核廃棄物、米加漁業紛争などを取材。国際協力機構専門家・アジア太平洋放送開発機構講師を歴任。アジア各国の放送局のジャーナリストを育成指導。