6年前のあの冬の夜、部屋で一人ただ泣いていた俺は、まだここにいる。
ー照れ臭そうに荷物を車に運ぶ悟。俺はその姿をまじまじと見つめてしまった。久しぶりの悟の姿がなんだか懐かしくて、嬉しくて、顔がほころんでしまっていたかもしれない。
「元気そうじゃん!」
俺はいつもの明るい調子で言った。
2016年8月。福島県相馬市、久保 成樹(くぼ なるき)は除染作業員をしている親友の悟(さとる)に6年ぶりに再会する。秋の花火大会まで3ヶ月間、一緒に過ごす内に彼は悟に惹かれていく。
ー「申し訳ありませんが、除染作業員はお断りしておりまして、誠に申し訳ありませんが。」
男の人が最後まで言い終わる前に、悟は立ち上がった。悟を怒らせたと思った。当然だ。いつもなら止めるけど、今回はそんな気はなかった。除染作業員お断りなんて馬鹿げている。
「帰るぞ。」
「え?」
驚いた。悟は立ち上がりそう言うと、誰とも目を合わせず個室から出て行った。
ー「ごめんな。」
そう言うとちらっと俺を見て、すぐに前を向く。そしてまたゆっくり歩き出した。俺はどうしようもない気持ちになった。いろいろ聞きたかった。どうして除染作業員はお断りなのか、どうして文句の一つも言わなかったのか。
でも俺は何も聞かなかった。何も聞かないことにした。見栄なんか普段は張らないくせに、かっこつけてあんな店を予約して、あんな顔で謝られたら、何も言えないに決まっている。
ー「10月に花火大会あるんだぜ。」
「10月か・・・それまでいるかな。」
「いろよ!10月までいろ!約束しろ!」
「わかったよ!離れろ!」
俺はわざと嫌そうな顔をした。その姿を見て悟が笑った。俺も笑った。
「楽しみにしてるぞ!」
悟は俺に思い出させてくれた。別れた後の辛さと同じくらい、好きになることがこんなに辛いってことを。
ー「そんなこと聞きたくない!」
悟のその言葉を最後まで聞く前に、俺は持っていた酒の缶を、思い切り悟に投げつけた。
ー俺はそのまま、床に崩れ落ちた。ドアに寄りかかったまま、腕を丸めて、顔を伏せて、泣いた。
ー「悟はさ・・・。」
俺は悟のことが羨ましくて、仕方なかった。
「ん?」
憧れていた。
「悟は、本当に強いんだな。」
何より愛おしかった。
「なんだ、それ?」
悟は無邪気に笑って歩いて行った。歩いて行ってしまった。俺はその背中を見て立ち尽くしていた。どんどん遠くなる背中を見て、また、あの人を思い出した。
ー「俺さ、小学校の時、すげー仲良かった奴がいたんだ。初めて親友ができたんだ。嬉しくてさ。毎日学校に行くのが楽しくてさ。でも仲良くなってすぐ、転校しちまった。」
珍しく悟が話し始めた。
「だから、お前から連絡が来た時、嬉しかったんだ。」
今ここにある大切な親友への感情と、忘れられない過去の恋。その間で揺れ動く想いは秋の空へ開く大輪とともに溢れだす。
ー全部、全部好きだった。
俺には歓声はかき消され、ただ季節外れの花火が映る。花火は俺の顔を赤や黄色、青に染める。
俺はいつの間にか、泣いていた。
孤独で不器用で弱くて、それでもただ純粋に愛を求める男同士の恋愛を描いた、
忘れられない人がいるあなたへ贈る、切ない恋の物語。
ー悟が俺の目の前までやってきて、俺を抱きしめた。ひざから崩れ落ちそうになった。立っているのがやっとだった。悟の大きな体が、俺を包んでくれた。
声が震えていた。泣いていたと思う。俺を抱きしめるその腕は少しずつ強くなっていく。震えながら泣きじゃくる俺を抱きしめて、悟の体も小刻みに震えていた。
akinohanabi (Japanese Edition)
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