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    A secret of Vienna 2: A common past among the ancient capitals in Hapsburg Empire (Japanese Edition)

    Por Fukunaga Kei

    Sobre

     旧ハプスブルク帝国の首都ウィーンとその後背地、チェコ、ハンガリーをめぐり、「民族の入れ替え」を追った。400字詰め換算で241枚相当と写真数十枚を上下2巻に編集した下巻。

     新聞記者の仕事の中でインタビューは大きな柱の一つだ。
     あるテーマに沿って、どこの誰に話を聴き、どう疑問をぶつけ、それを基にどうまとめ、どういう記事を書くか。テーマに沿って話してくれそうな人が見つからないこともあるし、見つけても日程が合わなかったり、場所が遠すぎて会えないことも少なくない。せっかく会えても期待していた内容や反応が得られないこともある。しかし、抱いていた疑問にドンピシャリの答えをくれたり、さらに、こちらが予想もしていなかった事実や背景を語り出してくれる人に出会った時、インタビュー後の帰途は至福感がじわじわと広がり、人生の展望さえ一気に開けた気持となる。いや、別に記者に限らず、誰でも新たな人に会い、その言葉から強烈な印象や強い刺激をうけた時、嬉しくならない人はいないと思う。
     
     私にとっては、本書上巻で紹介したウィーンのティナ・ワルツァーさんとシュテファン・テンプルさんの2人組、下巻で紹介したプラハのヤン・ウルバン氏、ブラチスラバのミロシュラフ・クシ氏とのインタビューが、そうした至福感をもたらしてくれるものだった。現在の日本での私の日常とはまったく脈絡がなく、年月もたっているが、あの時彼らに会って話を聞いたカフェであり、ビルの屋上であり、自宅の居間の情景は、彼らの熱い言葉や表情とともに、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。
     
     下巻の冒頭に記したように、私は二十歳の頃、偶々ウィーンとプラハとスロバキアの田舎に旅行者として滞在した。その頃はヨーロッパどころか日本の社会や歴史も知らず、英語さえ話せず、人々の姿と景色を目にし、通り過ぎるばかりだった。
     
     ところが何の縁か、数十年も経たある時、私は同じ場所に立ち戻ることになる。ウィーンの支局で地元紙やロイター電を乱読する中でわいた疑問を持ってプラハやブラチスラバに行くと、彼らがその疑問に懇切丁寧に答えてくれ、しかも思いもよらぬ事実や刺激を与えてくれた。二つの大戦と東西冷戦に翻弄され、くぐり抜けて来た彼らには当然のことかもしれないが、その場に居なかった私には新鮮なことばかりだった。彼らは私にとって上質な歴史の先生だった。その思いと話してくれた彼らへの感謝の念が私に本書を書かせた。彼らの話を、いつか誰もが読めるような形で伝えたいと思い続けていた。

     ウィーン、プラハ、ブダペストはいずれもドナウ、ブルタバ河畔に咲いた大輪のバラだ。ユネスコの世界遺産にも登録されている。
     三都は人口800~1000万人の中欧の小国の首都にしては輝くばかりで、余りにも立派だ。理由は明白。ウィーンが現在のオーストリアだけではなく、640年にもわたって欧州、あるいは世界に君臨したハプスブルク帝国の首都だったからだ。プラハも一時ハプスブルク帝国の首都だったことがあり、ブダペストは帝国末期の「オーストリア=ハンガリー二重帝国」でウィーンとともに「二重首都」だった。
     
     私はウィーンに赴任してから2年半、激動した旧ユーゴスラビアとセルビアの首都ベオグラードに取り憑かれてしまい、ウィーンに住んでいながら三都に目を向けなかった。ベオグラードに比べ、あまりに平和だったからだ。
     
     ところが、ベオグラードが落ち着いてきたころ、次第に三都に興味を持ち出した。平和に見える街の奥に、想像もしかなかった「民族の軋轢」が見えてきたからだ。
     
     ウィーンでは街の中心で多くの資産を所有していたユダヤ人が資産を奪われ追放され、チェコでは追放されたドイツ系住民とチェコ人との確執が今も尾を引き、ハンガリーでは国外に離散した同胞を巡って周辺国との軋轢が残る。いずれのケースでも「民族の入替え」を巡る摩擦が起きていた。東西を隔てた壁が崩壊し、国際的な観光都市として脚光を浴びる旧ハプスブルク帝国の三つの首都は、はからずも同種の過去を抱える点でつながっていた。

     福永渓 1954年名古屋市生まれ。毎日新聞甲府支局、東京社会部、アフリカ特派員ハラレ支局長、同ヨハネスブルク支局長、ウィーン支局長、パリ支局長など。著作『パリに吹くBoboの風』(第三書館)、『南アフリカ 白人帝国の終焉』(第三書館)、『アフリカの底流を読む』(ちくま新書)など。著者のHPは http://www.fukui626.club/

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