crayon- i (Japanese Edition)

……「僕、またみんなのところに戻れるの？」

「さぁー、それはどうかな。何事かを学んで必要になったら、また良い場所へと運んであげるさ」

「風さん。　……僕はどうして、みんなと離れ離れになってしまったの？」

「誰もが、望む場所へと運ばれているのさ。それは儂のせいではないのだよ。大体は、お前の望みが、行くべき場所を教えるのだから――」

「僕には、何が何だか解らないよ！　どうして、僕は生まれて来たの？　何のために？　何をするために？　苦しい思いをするのはどうして？　僕がなにかいけないことをしたから？　ねぇー教えて下さい、風さん！。僕は何処へ行くの？」

「それは……誰もが求める場所さ。行けば誰でも答えの見つかる場所さ。そこで、本当の自分に会うんだよ。それまでは、苦しみも味わうが……　それは〝生きる証〟と成るためなのだよ。　……おまえも、これから他の色と交わりながら、喜びと苦しみとを分かち合い、そしておまえ自身へと近づいて行くのだよ。　――自然とはそのように、お互いを支えることで、美しい姿へと磨かれて行くのさ……　〝虹〟を見てご覧――」


――著者が、野外スケッチを通して自然から教わる事柄を、人間共通の内的体験として、長編小説「人世物語」にまとめる過程で、複雑な人間の問題を、クレヨンと云う色彩の擬人化により、より平易な内容として届けることを試みた短編小説。