【復刻版の原本】
この電子書籍は、以下の書籍の版面を複写し、シミ、ヤケ、活字のかすれ等をできるかぎり修正し、読みやすくした復刻版です。
三遊亭金馬『江戸前つり師』(徳間書店 昭和37年9月10日発行)
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【解説】
三遊亭金馬は、明治27年の本所生まれで、生粋の江戸っ子です。古今亭志ん生、桂文楽と並ぶ落語界長老の一人でした。釣り歴は落語歴よりも長いそうで、月に3~4回出かけ、昭和30年代にはテレビ各局で魚料理も担当したほどでした。
以下、金馬師匠による「あとがき」です。
「魚釣と人生は実によく似かよったところがある。女は男を釣り、男は女を釣ろうと思って釣られている。ぼくの釣も、魚に釣られて帰ることが多い。しかし釣は、忍耐を教え、辛抱強くさせてくれる。釣の失敗は、つまり人生の失敗ともいえる。
五十年間の釣を振り返ってみると、失敗だらけで、何も残っていない。落語も釣も未完成のまま、人生の終点が近くなった。
それでも、これから落語の研究ができ、古典の奥行きが深まり、新作がやれ、また釣の方も、よい釣場をみつけ、珍しい釣の仕かけを考え、大釣をすることもあるような気持がする。といっても、漁師の釣ではないから、一大漁業会社を始めようという野心はない。はなし家の釣だから、どこまでも遊技的である。
その実、落語も、客に受けようという欲が出るので、いつまでもうまくならない。釣も、一尾でも余計に釣ろうと思うので、今だに悟りきれずにいる。近ごろ、レジャー・ブームという言葉があるが、自分一人が楽しんで家族を困らせるのは、娯楽の本質でない。月に一回ぐらいは、家族慰安デーとしたい。子供の好きな映画にも連れ出されるし、ぼくのほうも家内、子供を釣に連れて行こうと思う。
出版社から、どこまでも初心者が読んで楽しく、釣った魚の料理まで書けといわれたが、何度もいうように、ぼくは釣もヘタ、料理もうまくない。ただし、好きということについては、他人さまの二倍も三倍も好きだから、けつこう自分では楽しんでいる。毎月、『釣から料理食べるまで』というテレビの番組を引受けてやっていた。それを、順序もなく一杯飲みながら、駄ジャレまじりにしゃべったことや、子供時分からの釣の思い出なぞを書いたのだが、重曹、調味料代わりに川柳、小ぱなしを入れ、いわば半端布を切り集めて縫い合わせた漁師の仕事着のようなものである。しょせん、大原女染めほどの風流気は出ない。
それに、時代のずれもある。
ぼくなぞ、釣したくをしておいて雨に降られ、舌うちをするようなときに、釣場の地図を見ている。読者のみなさんも、きっとそういうことがあると思うが、そんなときに、地図の代わりにこの本を読んでみてください。きっと、ウップンを晴らして笑っていただけると思います。今後とも、ご教授の水先案内をお願い申します。」
EdomaeTsurishi (KyorinsyaBunko) (Japanese Edition)
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