【渇いた心に、極上の物語をどうぞ】
「日乗」とは日記という意味。
あるうららかな春の日、菊水は山門を見上げて息をついた。緊張が全ての感覚を鈍らせて、蝋梅の香りは失せ、すぐ近くで目白が鳴く声も菊水の耳には入らない。
舞台は江戸よりすこし前、己(おのれ)が医師といえば医師、お上の医術への取り締まりがまだまだゆるい時代。ヤブも多かった時代に、その確かな腕で富める者から爪に火を灯すような吝嗇(りんしょく)な暮らしを余儀なくされていた貧しい農民にまで、あまたの人の信頼を得て活躍した漢方医に、鵲翔(じゃくしょう)がいた。その孫娘で、当時としてはめずらしく女ながら薬学を鵲翔のもとで修めたのは、笹。内地はまだまだ血なまぐさい戦乱の絶えない武将たちの世の中だった。そんな時代に鵲翔は第一線の医術界からは身をひいて、時々やってくる患者を診る以外はひっそりと隠居生活を営んでいた。世に謳われたこの名医のもとに、まだ歳若い菊水(きくすい)が弟子入りを乞いにやってきた。ここにたどり着くまでにいったい何百人の日の本中の医師に弟子入りを断られたことかと嘆息する菊水の心はけっして穏やかではなかった。はたして、菊水の運命やいかに?!
EpisodeIchiKanpoNichijo001 (Japanese Edition)
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