暗闇に浮かぶ無数の映像は、夜の虹のように魅惑的で、星座のようにきらびやかです。映像の銀河に溺れます。
■0191「羊たちの沈黙」
「羊たちの沈黙」(ジョナサン・デミ監督)。私は原作を読み、映画化のニュースを聞き、完成を首を長くして待っていたものだ。トマス・ハリスの小説は、実に良く練られた作品で、軽々しく原作を超えたなどと言うべきではない。2時間作品なので、 小説のような細部の深みは期待できないものの、映像的なインパクトと巧みな抑制で、原作と並ぶ出来ばえ、質の高い作品になった。ただ、ハニバル・レクター博士役のアンソ ニー・ポプキンスは、もう一歩奥深い歪みを表現できなかったかと感じた。ジョディ・フォスターも、経験の少ないクラリス・スターリングの弱さをもう少し出せなかったか。しかしながら、2人が初めて会話するシーンでは、監督の巧さにうなった。いずれにしても、先駆的な作品だった。
■0195「クラッシュ」
「クラッシュ」(デビッド・クローネンバーグ監督、1996年)の全体を包む冷え切った質感がたまらない。金属的なタイトルと音楽。突き離しながらも、人間に寄り添っていく映像。狂おしい情念を秘めた人たちが淡々と出会い、そして散り散りに消えていく。映画の文法を静かに、しかし決定的に超える自在な展開で、クローネンバークは1990年代を代表する傑作を生み出した。
ジェームズ・バラードは、交通事故を起こすが、その時の興奮が忘れられない。衝突した相手の車に乗っていた女性によって、自動車事故による性的興奮を求める人たちの存在を知らされていく。彼等の無表情の奥に燃える欲動。ホリー・ハンターがめちゃくちゃにうまい。ロザンナ・アークエットもマゾヒステックな情念を演じ切っている。
1955年9月30日のジェームズ・ディーンの死亡事故を再現するヴォーンの衝突シーンが異様なまでにリアルだ。今日も世界のどこかで交通事故死した有名人の事故再現ショーが繰り返されているような感触を持った。振り返ってみると、私たちも交通事故死にある特別な感情を抱いている事が分かる。ベルトリッチ監督が言っているように、この映画は極めて宗教的な深みを持った作品だ。
■0202「CURE」
「CURE」(黒沢清監督、1997年)。胸元をXに切り裂く殺人事件が続発するが、加害者はそれぞれ違っている。謎が深まる中、一人の記憶喪失者が重要参考人として浮かび上がる。一種のサスペンスではあるが、 犯人探しの映画ではない。テーマは、犯行の動機と催眠のかけ方、そして心を病む妻に疲れ果てている刑事・高部と犯人の壮絶な闘いですらない。倫理の壁が崩れかけている人間のもろさと狂暴さこそ、この作品の主題だ。感性の繊毛を逆なでする音と映像が、よそよそしい爛れた水のような恐怖を静かに育てる。
私達を不安にさせる映像。そこには「羊たちの沈黙」を連想させる根源的な問いが偏在する。日常の中に殺人を忍び込ませる手つきは、こちらの方が一枚上かもしれない。また明治時代の映像を挿入することで、現代人を特殊化するような逃げ道も封じている。私達は最後まで何一つ答えを与えられない。刑事が犯人を射殺するラストシーンで安堵する自分が寒々しくなる。自分の疲弊した感性にぞっとする。
ginmakuginga dai go kan (Japanese Edition)
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