現代の人口の3分の1に相当する20億人以上の信者を擁する世界一の巨大組織・キリスト教は「絶対的リーダーだったイエスが十字架で処刑される」という衝撃的な出来事をきっかけに始まった。しかもそれを始めたイエスの弟子たちは、当時の社会において何の力も持っていない人々だった……。
なぜ何の力もなかったイエスの弟子たちが、過酷な迫害に耐え抜いて教えを広めることができたのか?
一時は消滅寸前だったイエスの教団が、なぜ次々と外の世界に拡張していくようになったのか?
現代のキリスト教が「世界一の宗教」であることは世界中の誰もが認める事実だと思いますが、不思議なことに一般の人だけでなく教会関係者の方でさえ「イエスの死後に弟子たちが教えを広め、キリスト教が世界宗教になる基盤を作ったこと」がごく当たり前の話として認識されている感じがします。
ただ、聖書に書かれた記述を元に当時の状況を冷静に考えた場合、絶対的リーダーだったイエスに頼り切っていた弟子たちにとってイエスの処刑による衝撃と失望は計り知れないものがあったと思うので、そのショックで彼らは散り散りになり、教団は消滅して終わるのが普通の流れだと思います。
ところが、弟子たちはその後結束してイエスの教えを各地に広める行動を起こし、やがて教団はローマ帝国の隅々にまで広がって国教となり、徐々に世界各地に浸透していって最終的に「全世界に数十億の信者を持つ世界一の宗教」になってしまいます。このことは私たちが認識している世界史の中では「史上最大の大逆転劇」ではないかと思います。
なぜイエスと比べて何の力もなかった弟子たちが結束し、過酷な迫害に耐え抜いて教えを広めることができたのか。そして、なぜ一時は消滅寸前だったイエスの教団が勢力を蓄えて外の世界に拡張していくようになったのか。この『イエスと弟子たち第二部』ではそうした過程を描いていきたいと思っています。
ローマ帝国の支配下にあったイスラエルの地で独自の教えを説き始めたイエスは、伝統あるユダヤ教を冒涜し民衆を扇動する危険人物としてユダヤを統治するエルサレム衆議会に敵視され、様々な妨害を受ける。そして「奇跡を起こしてイスラエルを解放する王」であることをイエスに期待した民衆たちも、期待に応えないイエスの姿を見て失望する。
過越の祭りにおいて民衆は再びイエスを熱狂的に支持するが、策謀によってヘロデ・アンティパスを操り、洗礼者ヨハネを葬ったアンナスがユダを利用してイエスを逮捕する。そしてピラトの公開裁判で民衆を扇動して十字架刑の判決を出させ、最大の敵を処刑することに成功する。
絶対的リーダーだったイエスを失って分裂寸前だった弟子たちは、生前の師の思いに触れて再起への道を歩もうとする。立ち直ったペテロは、一つずつ課題を克服する中でついに復活したイエスと対面する。ペテロを指導者として誕生したイエスの教団は、やがて磐石な組織体制を築いてエルサレムに定着していく。
上巻2 イエスの教団に襲いかかる衆議会からの弾圧と迫害。アンナスの罠にはまってステファノが殉教を遂げるが、その死は教団がイスラエルの外に拡張する呼び水となった。そして教団を迫害していたサウロは、内心で律法遵守では心が満たされない葛藤に苦しんでいた。彼はダマスコに向かう途上、荘厳な声で語りかけるイエスの姿を見る。
ステファノの反論を聞いたサウロはさらに問いかけた。
「そうとは限るまい。なぜなら、衆議会裁判の後で大祭司猊下がその男をローマへ政治犯として告発したのは、猊下がその男に温情をかけ、もう一度チャンスを与えようとされた可能性もあるからだ。とにかく、総督のところに送られたことだけでその男に涜神の罪はないと主張するのは暴論だ。事の本質はそのことではなく、その男が自らを救世主であると宣言した事実にある。それが十戒や律法への冒涜行為であることは明らかではないか。
そうした律法を冒涜した男を、お前たちはなぜ救世主として崇めようとする? それはお前たちも律法冒涜者であると宣言していることにならないか」
「……明らかに救世主ではない人間が自分を救世主と宣言した場合、それは十戒や律法に違反することになると私も思う。ただ、もし本物の救世主が自分のことを救世主と宣言した場合、それは偽証ではなく事実その通りであって、律法の違反でも冒涜でもないと思う。
私が思うに、あの人は自分が救世主だと公式の場で言った場合は神を詐称した罪で告発されると明確に知っていたのではないか。知っていてなぜ言ったのか? それは、あの人は偽証して罰を免れるより、正直に言って罰を受けた方がいいと判断し、それを覚悟したのではないだろうか」
「そんな推測でしかない話では我々を納得させることはできない。我々を納得させたいと思うなら、あなたはイエスが本物の救世主であることを証明することだ。それができれば私もあなたの言うことを信じられるし、この尋問を聞いている衆議会議員の方々も納得できると思うが」
「それは証明できるような問題ではなく、一人一人の判断に委ねるしかないと思う。あなたがイエスを救世主と思えなくても、私にはあの方が救世主だと信じられる。そうした一人一人の判断の問題として考えればいいのではないだろうか……」
さらに尋問は進んだが、ステファノが明確に神殿軽視や律法冒涜をしていたという言質を取ることはできなかった。
尋問が一通り終わって裁決に移りそうな雰囲気になり、ヨセフが「どうやらそれほど重い刑になることはなさそうだ」と安堵したその時だった。出席していたアンナスがステファノに向かって語りかけた。
「やれやれ……。異国に住んでいたディアスポラの者は聖書などまったく読んでいないと見える。聖書には、『木にかけられた者は呪われる』とはっきり書いてあるのにな。神に呪われ、民衆から十字架にかけろとまで言われた負け犬のような男に肩入れして何の意味があるのか、まったく理解に苦しむわ」
これを聞いたステファノの表情が変わった。低い声でアンナスに問いかけた。
「今、何と言った?」 ~「第三章 殉教」より
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Jesus and his Disciples Part2 First Volume Act2 (Japanese Edition)
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