五七五の俳句は、芭蕉が杉風に言い遺したように老後の愉しみの一つ。また俳誌を出している俳句結社(グループ)が多く、俳句花盛りの観があるものの、その実体はどうなのか。芭蕉、蕪村、子規と受け継がれてきた文学としての俳句の本質をうまく理解できず、お茶やお花と同じ習い事として指導、運営している主宰が少なくなく、俳句の真価に触れぬまま小手先だけの芸事「お俳句」に終わる人も。
著名な俳人であった姉の後を継いでともかく主宰となり、幹部同人にサポートされつつ運営してきた俳句結社が、同人会員の高齢化により退潮傾向に歯止めがかからず、句会指導料を当てにして俳句を小銭稼ぎと割り切る主宰を、どうやって円満に退かさせ、しかるべき人物に継がせようかと思惑と打算渦巻く俳句結社のありさまを描いた作品です。
〈作品内容〉
「逆流」主宰の戸井田菫は、俳人として評価を得ていた姉の急死によって、野心をひめた幹部同人が互いに牽制しあって後継者が決まらず、結社誌に句を寄せていただけの妹の菫を説き伏せて主宰とし、一時しのぎのつもりであったもののそれが二十年に及び、指導運営の拙さと高齢化によってメンバーが減る一方。
また、菫自身、古参幹部に指導を受けたものの姉と違って俳句がもう一つ見えず、季重なり、三段切れといった繰り言のような指導に終始し、句会指導料や盆暮れの付け届けをアテにしているありさま。
古参幹部で菫に俳句を教えたと誰はばからず口にする村崎聡は編集を牛耳り、主宰の菫より影響力があるものの、菫が知らん顔をしているので編集顧問のまま。その村崎を副主宰にし、そして後継者にしようとする動きがあり、その根回しに野見香保里が磯城晃司に近づく。晃司は菫の受けがよく、晃司を通じて菫の意向をさぐるとともに、自分たちの協力者にしようとの目論見があってのこと。晃司は定年退職後、逆流に入り編集スタッフとして校正作業にかかわっていたが、編集長の野上貴代子に辛く当たる村崎にあまり好感を持っていなかった。
村崎が年で体が辛くなったので編集から外れると菫に告げ、菫は貴代子に相談せず、村崎同席のもとで晃司に編集の責任者になるよう要請する。編集長として実績のある貴代子を無視してそんな話はないだろうと晃司が困惑すると、菫も村崎も貴代子には後で話せばいいといった態度であり、晃司はその事に違和感を覚える。晃司がその話を断ると村崎はホッとした顔をし、機嫌がよくなる。
編集長の貴代子が道で足を滑らせて骨折すると、それをいいことに村崎は編集スタッフの一人、里峰を編集長の後継として告げる。晃司は貴代子が退院してきてから編集スタッフで話し合って決めるべきだと主張したが、菫自身も若返りの必要性を言い、村崎に同調する。なんとも恣意的な人事、運営のあり方に晃司は納得できず編集を離れ、菫や村崎から慰留の電話を得たが、逆流を去ることにし、菫宛に退会届を書く。
jyuunanamojinokyoushikyoku (Japanese Edition)
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