kikennnaikari: Pious anger (tiyohensyosetu) (Japanese Edition)

　日本の文学、小説の中にこのような作品が現れてきたのはどこからなのか？　ある人たちはそう思って不思議ではない。外国の小説にはあるかもしれない、しかし、貫通、不倫、愛欲に絡む劇的な小説はあっても、その果てに〔どろどろした〕人間関係の描写には入らず、それでいて、【間男】された【男】と【妻を寝取られた男】の劇的な、敵対的関係の中から――その男の怒りが爆発した瞬間、怒りは人間の敬虔な心を発してきた。そのような小説はほかにあるのか。
作者が昭和三十六年(一九六八年二十九歳のとき、現在の(上){掌に強く爪を}を書き上げた生原稿を読んだ文芸評論家の・石井冨士弥は、圧倒的な迫力に驚いていた。
「とにかくきみの踏み込んだ世界はエネルギーで決定される。慾と才能をいたわって、この道を員直ぐ歩き給え！　とにかくおめでとう！」（一九六十年三月）
　彼以外に認めてくれたのは、一二の友人だけで、全く獣殺された。
石井は私を月刊総合雑誌「公評」に紹介した時、いつも随筆めいたものか評論求られるをわかりながら、決して私を評論家という紹介も、私に対する対応も、常に小説、戯曲私覚人間――作家として対応するようにしていた。いつまでも無名でいるわに異存のあるはずもない。「無能者の光栄―小林秀雄について」を書いても、「役者という存在を書いた後も、、石井冨士弥にとって、私は世間に知られざる、特異な作品を書く〔小説家〕であった。
　八年後の昭和四十四三年、三十七歳のとき、庵原書店が作品集「敬虔な怒り」を出版してくれた。その時、石井は「これほど粘液質な人間関係を書いた作品は日本にはない」と新刊案内の中で書いている。
作者が昭和三十六年(一九六八年二十九歳のとき、現在の(上){掌に強く爪を}を書き上げた生原稿を読んだ文芸評論家の・石井冨士弥は、著者に私信を寄せ「ここに一人の作家が誕生した」と書いてきた。その作品の迫力に驚いていた。
　無名ながら、この作品で何人かの作家、編集者から注目された。
平成2年1月20日に全六百五十枚完成。菊版一冊にまとめて、自ら興した軌跡社から出版した。ほんの制作は、岩波ブックサービスセンター。装幀は今は亡き舞台美術家の本宮昭五郎。今回、上・下2冊に分けた。
 
　この作品の後、私は小説といえる作品は書いていない。長く同人雑誌を創刊して来て、自分は二十一歳のとき、長編小説「風蝕」四百枚書き下ろして単行本にしたように、辛抱強く自分の信念を貫く文学活動をするしか、生きる道はないと確信し始めていた。三十七歳のとき、庵原書店が作品集「敬虔な怒り」を出版した時、「新刊案内」に長編小説[夜の子たち]の予告が掲載されている。題名は決めていてもどんな作品を書くか暗中模索のとき、石井冨士弥が私の聞きかじりから、勝手に推測して内容らしきことを書いていた。とかし、全く手も足も出なかった。
　平成二年「敬虔な怒り」を出したときにも、[夜の子たち]を書きたい思いだけで、一人胸の中に押し込めているしかなかった。
　それが二十四年目にして書き上げたらね千四百枚の大長編小説となって自分の前に出現してきた。妙な言い方だが、二年弱の時間執筆していたとはいま、私には信じられないからである。
さて、これから、どうなるか。何を書きだせるか、このままで終わるか、全く予想できない。
　いずれ、あたらしい作で何か語れたら、その時、私にとって一番文学の上で重要な問題、「作者」と「私」の関係、――日本の小説は「私」を書いて、なぜ、ドストエフスキーの「地下室の手記」に通じる作品が生まれないのか。ということについて、書いてみたいと夢を見ている。
　そうだ、三十七歳のとき、庵原書店が作品集「敬虔な怒り」を出したとき、誠之尋常小学校のときの旧友・板持隆二本を送ったら、「地下生活者の手記」を思い出しました」と書いて寄越してくれていた。
彼はそのとき、株式会社日活に勤めていて，撮影所の美術課長をしていた。その後、取締役映像副本部長兼工業担当に就任している。私の知る限り、映画製作者として名j前を出していたのは、「血の絆」に協力して千野皓司監督と名を連ねてスクリーンに出た。
この映画は日本ミヤンマー合作　（現在、劇場未公開）映画「ＴＨＷＡＹー血の絆」だ。どうして、この作品が一般公開出来ないのか。3時間20分前後編に分かれた長さのせいと、映画の経営者は判断してのことかもしれが、あまり観客を軽視してはならない。これは多くのジャーナリトとに言えることだ。
　私は招かれて観劇した後、フロアーで板持に近付き「おめでとう、いい映画でした」と挨拶した。
　その彼ー板持隆を私の静かな読者の一人だ、と言ったら、――こいつ！」と苦笑するかもしれない。