We love eBooks

    kouinnmonogatari: kinnnodouko (Japanese Edition)

    Por takeshi michiki

    Sobre

    昭和中期の都会の下町、小規模企業の町工場に働く工員の物語です。トリキ君は日頃から、自分を自慢の出来ない町工場の工員に卑下していたが、そんな工場にも大卒の採用がかなえられる世相になってきた。戦後復興の波に乗った好景気だ。独身寮に大学出の新入社員、岳峰が入ってきたのは、その象徴になる。将来は営業に回るらしいが、とりあえずは一年間、研修で現場とかで、機械班、鈑金班、溶接班、組立班と一巡するという。見る限り、西国出身の岳峰は見かけによらず粘り強い性格のようだった。というのは、土曜日曜は寮の給食が休みで、近所の気さくなお好み焼き屋を利用すること多かったが、そこで行き会う近所の総菜工場に働く住み込みの女工と交際を始めると、夜な夜な会社のトラックを無断で持ち出して、デートを重ねるのをみたからだ。恋愛が秘め事に変わらない時代、昭和のなかば、それでもさすが大学出は進んでいた。そんな岳峰の、たいして深刻でもない恋愛ごっこの末、相手の惣菜屋の女工が自殺騒ぎを起こして、刻みたばこをしこたま飲み下してひっくり返ったから大変、モロコの事件に次いで、またまた救急車を呼ぶことになる。胃洗浄で一命は取り留めたが軽はずみな恋愛には考えさせられた。前後して、そのモロコが、十六歳のモロコが、十八歳のトモちゃんとの濡れ場を暴かれて、周囲の工員たちの知ることになり、この二つの事件に、トリキ君は触発されて、懲りもせず恋愛のまねごとを企てる。トリキ君はオヤジさんの口癖の鶏口牛後もさることながら、正直に生きろに教訓されたのが響いて、これまで酒、タバコ、恋愛をしたことがなかった。年齢制限を守ってきた。幼少期、トリキ君の成績表が1か2ばっかしなのは、単なる晩熟のせいかもしれない。二十歳になったとたん、恋愛はもちろん、酒もタバコも始めたからだ。なぜだか勉強らしいことはなにもなかったのは、何とも不審ではあったが。たまたま鳥木君にもまだ手を繋いだことのないガールフレンド、床屋のロコがいた。始まりは何となく床屋のロコの誘惑に負けた風のトリキ君だったが、始まってしまえば恋愛は自由で、どちらがどうということはない。そこで鳥木君はつたない仕事の段取りに照らして、自分から筋書きを作り出した。設計課長から聞きかじりの、新商品の設計試作ならぬ、怪しげな恋愛の道行き、めくるめくファーストキスとかを目論むのだった。それが単なる男のロマンでしかないのをすっかり忘れてである。

    工員物語 Ⅲ 金の銅壺の抜粋
    人生の岐路に現場工員を選ぶことになった、自動車工場の組立ラインの見学、その間に、これは結果に結びつかなかったが、トリキ君が宮大工になり損ねた話しがある。自動車工場で、何に驚いたかというと、働く人を、晒しものにしていることだった。自動車会社は、人が見ていてもそうでなくても、製品の品質が何も変わらないから見学をさせてくれたんだろう。でも、天井よりも高いところに通路を作って、頭の上から眺めさせるのは、監獄の監視が随分高いのに変わらない。それはそうだとして、見学した自動車会社の、品質日本一は、売れ行きから、多分が知られた事実で、誰にも変えようはないのも確かだ。臨時工だろうと、トリキ君だろうと、ひとを選ばないレベルにまで、生産技術が高いレベルにあるはずだった。それに、トリキ君にかけがえのない安心をくれたのは、部品運搬車だ。本物の蛇には及ばない、ゆるい蛇行をして、トロッコのようなゴムタイヤの車列が、敷地内を引きずられるのではなく、付いて回る、生き生きとした動きにあった。子供の頃に遊んだ汽車ぽっぽは、機関車を床に思い描いたレールの上を走らせて、少しばかり急なカーブにすると、たちまち一番後ろのが止まって、全体が真っ直ぐになるまで動かなかった。カーブから脱線だ。それで、ここでの、ぞろぞろ前にくっついた蛇行には目を見張ってしまう。目の前を追尾しお追従する生き方は悪ガキ仲間の行動には欠かせない基本で、つまり、付いて回るへつらいが尻(けつ)子分(こぶん)の使命なんだ。そうしなければ、たちまちハブケのハチベエにされる。最後尾の箱車の擬態は、そんな人の動きに倣ったそのもので、トリキ君にはガキの頃の自分に思いが重なって、蛇行が生き生きとして見えた。現場工員を選ぶことになる。
    「中略」
    そんな確かな人生上の拾得物にはならなかったものの、忘れられない貴重な経験が、別にある。小学五年の時、台風に傷んだ祠の再建が、将棋の会場の神木の向こうで始まって、棒銀の師匠が到着しないのに暇を持て余して、作業を、大工仕事を覗いたことがある。まだなにも形が出来ていない、工事はまだまだ取っ掛かりの様子で、老人が一人っきり、日陰を選んで、座り込み、上体を規則正しく、ゆらゆら揺らしていた。仮設の小屋の日陰は、材木が大部分と、残りを老大工が陣取って、トリキ君は日を背にした。直射日光に老人の手元がよく見えて、そこへしゃがみ込んだ。老人はちらっと一瞥したが、構わずにしきりに指先を揃えた両手を漕ぐ。々傍らの手桶の水に手を濡らし、水滴を金物に、刃物にくれている。老人は鉋の刃を研いでいるのだった。トリキ君が固まったのは、老人がいつまでも、休みなく繰り返すのを飽きず見続けた結果で、二十分とも三十分とも、一時間だったかもしれないで、棒銀の師匠が現われるまで二人の尻の位置が変わらなかった。老人が根気が良いのか、トリキ君の根気が良いのかは老人に決まっている。この間にひと言もなかったのだ。「ぼう、面白いか」「うん」なにがと聞かれたらすぐには答えられないのに、トリキ君は気づいていた。無理矢理にすれば、『初めて見ることだもん』と、それならいうことが出来た。作業そのものをしてみたいとは思わなかったが、何をしているのかが知りたかった。「わっちの弟子になるか」「弟子って」「宮大工さあ」「宮大工って?」「うん、偉い大工さんってもんさ」「偉いってことは威張れるってこと?」「まあな、そうしたければな、そういう者は少ないがな。威張るもんに偉い人はいないしさ」「ふーん。威張れるんなら成ってもええかな、けど、それ、何するの?」「これは鉋の刃だよ、材木を削る道具さ」「ふーん」「これが分かるか」「石じゃん」「石には違わんがナア、砥石じゃよ」「トイシ?」「鉄をすり下ろす石じゃよ。鉄より石が硬いと知っとるか」「そんなの、知らんや」「そうか、知らんか、そうか、そうか、大人でも硬いことを鉄板に喩えるで なあ仕方がないわな、これはな、蛙目って言ってな、今では手に入らん名品じゃよ」「ガイロメ?、メイヒン?」「逸品とも言うがな、滅多にはお目にかかれん物ってことさ、蛙目砥石をよく見とけ」粘土にも色々あって、それを粘土色と言ってよいのかどうか迷うが、遊び場のがけに露出した粘土に似ている。薄緑の所々に赤みがかった黄色の縞模様が走って、なんとなく似た色合いだったし、ちょっと見が学校で使った水簸粘土にも見えた。その粘土色に濡れた表面の、しっかりした平らさと、微かに浮かぶ鉄さび色に、黄色味がった波模様が、手で触れたくなる自然石の綺麗さだった。しかしそこではトリキ君には川で拾った黒曜石の一粒のほうが宝物になる。どんなものでも価値はその人の気持ち次第でしかない。

    Baixar eBook Link atualizado em 2017
    Talvez você seja redirecionado para outro site

    Relacionados com esse eBook

    Navegar por coleções