あらすじ
バンド活動の理想と現実に翻弄される23歳女性ボーカリストの美月。彼女は念願だった歌う場所を失おうとしていた。一方V系バンドEMERALDリーダーでプロデューサーのTENは何度もメンバーが去って行くことに苦悩するが、周囲の助言により新しい未来が見え始める。二人は傷つきながらもかけがえのない経験と人との関わりを通して大きく成長していく。
ライブ、スタジオ、SNS、メンバー募集、音楽業界、ライブハウス、脱退、解散など超リアルバンド小説。
「いつの世も歌手を目指している人は100万人いるらしいよ」
リーダーがドリンクバーから持ってきたココアとコーヒーを交互に飲んでいる。
「例えば、大手のレコード会社がオーディションを開催するだろ。そうするとだいたい3万人くらい応募がある。つまり実際に行動に移すのは3%くらい。行動力がある人は2%くらいと言われているから、この数字は妥当だと思う。そしてその3万人の中でライブハウスや何かの場所を求めて動きだす人は1割くらいかな。メン募サイトだってそうだよ、アクティブ会員が1万人くらいいるはずなのに、一か月に書き込みは千件もない。つまりほとんどの人は、誰かが良い応募出してくれないかな、とただ受動的に待っているだけでその癖、いつも同じ人ばっかりだ、と不満をつぶやき何も動かないまま1か月3か月1年3年と歳を食っていく。経験のない人ほど身の程知らずで自己評価が高く、その結果いつまでたっても動き出すことができない。歌手志望なんて代わりはいくらでもいるんだから、お金を払ってでも場所を見つけるくらいの気持ちじゃないとだめなんだ。特に女性は若い内にチャンスが集中するから30過ぎると嘘のように相手にされなくなる。みんなわかってるようでわかってない。だから動かない。そもそも20歳越えてなんにも活動経験がないとかどういうことなのって思ってしまう。今まで何やってたんすかと。まぁ美月はそういう意味では専門学校も出てるし偉いけどね。」
美月は紅茶をすすりながら軽く首を縦に振り続けて話を聞いていた。最近23歳になったばかりだがこれが初めてのバンド活動だ。それまでは一人でシンガー系のイベントに出演していた。一人でやっていても楽しくなかった。喜びを分かち合える仲間が欲しい。一緒にCDを作ってファンを増やしてたくさんライブをして家族のようなかけがえのない温かい居場所が欲しい。そしてメン募サイトでこのバンドの募集を見つけて応募した。それが1年前。リーダーがココアを飲もうとしたら空になっていたので仕方なくまたコーヒーを口にして話を続けた。美月はその子供のような仕草が妙にかわいく感じた。
rasen no stage (Japanese Edition)
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