神々の鼓動が響き渡る~愛と死と再生の一大叙事詩
かつて木下順二は、民話の再創造を試み、新しい解釈を加えた民話劇「夕鶴」を創りだしたが、それになぞらえていえば、『蛭子』はおそらくわが国でさいしょの神話の再創造の試みということになろう。~日本児童文学者協会会長 砂田 弘 (本書「作品解説」より)
この作品が最も人を感動させるのは、人間存在が抱える「業」や「愛と憎しみ」を乗り越える「本当の知」とは何かを、蛭子によって語らせていることであろう。
人間の愚かしさを神々の世界に仮託して、「もう争いはいやだ! さまざまなパラダイムの相違を和諧させて行くことこそが、私たちの生きて行く唯一の道だ」と説いている。
この思想こそが、実は『古事記』が編纂された本当の意図ではなかったのか。私はこの作品を通読して、そう考えるに至った。~寺澤 捷年 (千葉大学大学院 医学研究院 教授)
日本最古の歴史書である「古事記」は、天地開闢(かいびゃく)の後、七代の神が交代し、最後にイザナギ、イザナミの男女の神が生まれ、天上界の高天原(たかまのはら)から天の沼矛(あまのぬぼこ)で世界をかき回して淤能碁呂島(おのごろじま)を造り、そこに降りてきて結婚し、イザナミが日本列島の八つの島々を産むという神話を記している。しかし、二人が結婚して最初に生まれたのは、実は「蛭子(ひるこ)」と呼ばれる奇形児であった。原典では蛭子はそのまま海に流されてしまい、イザナキ、イザナミは高天原の神々の教えを請うて、新たに子どもを産み直すことになっているが、著者はこの蛭子が他の神に宿って、変容する神々の主体となっていくという大胆な仮説をたて、古事記を一つの大河小説として再創造している。
著者のもう一つの古事記に関する著作「古事記~変容する神々」では、古事記に登場する神々が突然性格が変わってしまう(変容する)事例を詳細に分析しているが(例: 国生みの女神であるイザナミが地獄の鬼になってしまう、暴君であったスサノオが出雲に来て突然八岐大蛇(やまたのおろち)を退治する英雄になってしまう等)、そのような神々の変容を蛭子という半ば忘れられたキャラクターを用いて説明している。
この物語の最後は出雲の国譲りで終わるが、一つの小説としても楽しめ、古事記の入門書としても役立ち、なにより古事記が編纂された目的であるところの「独裁と戦争からの国家の解放」という時代を超えた普遍的なテーマについて、深く考えさせられる哲学的な作品である。
Shousetsu Hiruko Kojikiyori (Japanese Edition)
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