孫子は、本篇冒頭で『凡そ軍を処き、敵を相る。』と論じています。この句は、一見すると、凡そ行軍においては、処軍、則ち軍を良き地形において彼を伺いて兵を用うるやり方、および相敵、則ち敵情判断の方法という二つの要素が重要であるとし、以下、それら一定の原則について述べるという体裁をとっていますが、同時にこの句は、言外の意として、次のように本篇の内容を総括しているものと解されます。
則ち、『山を絶れば谷に依り』から『此れ伏姦の処る所なり』までは『処軍』について、また『敵近くして静かなる者は』から『必ず謹みて之を察せよ。』までは『相敵』について論じるものではありますが、『処軍』にせよ『相敵』にせよ(言い換えれば、将軍がどのような作戦を構想し、あるいは臨機応変・状況即応の用兵を企図するにせよ)、つまるところその目的を達成するためには、麾下の軍が訓練精到にしてよく統率され、手足のごとく動くものであることが理の当然として要求されます。
まさに、そのゆえに孫子は『兵は多きを益とするには非ざるなり。』から最終句までは、軍事の根本としての「人を用うる法」、則ち用兵は「結局は人にあり」を説くのであります。その意味でこの「人を用うる法」は、『処軍』・『相敵』の土台部分であり、そのゆえにこそ、本篇の締め括りをなすものと言えるのです。
さらに言えば、本篇の結言である『令素より行わるる者は、衆と相得るなり。』は、まさに君臣将兵の一体化、則ち「道」を説くものゆえに、おのずから『道とは、民をして上と意を同じゅうせ令むる者なり。故に、之と死す可く、之と生く可くして、民詭わざるなり。』〈第一篇 計〉の言と相呼応するものと解されます。
本篇の全体構造はそのような内容であることを念頭において理解することが肝要であります。本書の内容は下記の「目次」に示す通りです。
第一章 〈第九篇 行軍〉読み下し文
第二章 〈第九篇 行軍〉の構成分類
第三章 篇名に曰う「行軍」の意味と本篇の趣旨
第四章 本篇を総括する言『孫子曰く、凡そ軍を処き、敵を相る。』
第五章 本篇前段・処軍(行軍の第一要素)
第一節 処軍四法(四軍の利)
第二節 処軍の補説(軍陣衛生と兵の利・地の助け・伏兵他)
第六章 情勢判断の方法について(其の一)
第一節 相敵と情勢判断の方法について
第四節 情勢判断・十六角度の思考法と習慣づくりについて
第五節 情勢判断・十六角度の思考法の分説(№・一 ~ 五)
第六節 「全体と部分の根本構造」についての補足
第七章 本篇中段・相敵(行軍の第二要素・情勢判断の方法)三十二法
第一節 相敵三十二法・其の一
第二節 情勢判断に関する武田信玄の考え方
第八章 情勢判断の方法について(其の二)
第一節 情勢判断・十六角度の思考法の分説(№・六 ~ 十)
第三節 武田信玄に見る情勢判断の方法
第九章 本篇中段・相敵(行軍の第二要素・情勢判断の方法)三十二法
第一節 相敵三十二法・其の二
第二節 相敵の具体例
第十章 情勢判断の方法について(其の三)
第一節 情勢判断・十六角度の思考法の分説(№・十一 ~ 十六)
第二節 「全体と部分の根本構造」についての補足
第十一章 本篇中段・相敵(行軍の第二要素・情勢判断の方法)三十二法
第一節 相敵三十二法・其の三
第二節 相敵三十二法のまとめ
第十二章 本篇後段・統率と用兵の根本
第一節 剛武軽進の戒め(要点への兵力集中と敵情判断・料敵の重要性)
第三節 統率の要道は「仁」と「罰」の寛厳宜しきを得るに在り
第五節 真の上下一体・衆心一致と、〈第一篇 計〉に曰う『道』との関係
sonshiseikaishiriizu daijuuichikai (Japanese Edition)
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