Tasogaredokiniharaitowotsukete Kidou: konohitowosagashiteimasu Karisumauranaishi Mis Doragontaigaasensei bai OotoriRyuuko (Shousetsu) (Japanese Edition)

（ 2.起動 ）
　風下エコウは二〇歳。誰もが頷く美貌の持ち主。彼女は都内屈指のお嬢様大学・仏滅女学院に通っていた。が、実はお嬢様からは大きくかけ離れた地方出身の酪農家のひとり娘だった。ある日、先立つものをすべて失い、空腹で理性と判断力を失った彼女は、商店街で５００円玉を発見、一目散に一軒のラーメン屋を目指して駆け出す。安いだけで不味いと有名なラーメンを鱈腹食った彼女は、店を出た途端に極度の睡魔に襲われる。ふと暖簾越しに見知らぬ神社を見つけると、ちょっと昼寝でもと思い躊躇いもなく鳥居をくぐる。石畳を歩いているときだった。途端に辺りが宇宙空間に変わる。
　突然何の予告もなく宇宙の真っ只中に放り出された彼女は、気が狂わんばかりに元の世界に返してくれ！　と普段頼ったこともない神に乞い願う。すると突然何の脈絡もなく街角でよく見かける携帯ショップの受付のような事務所が現れ、そこの受付嬢から『せるふねっと』(通称・せるふ)に加入すれば元の世界に返してやると言われる。彼女は元の世界に返りたい一心に短絡的に契約書にサインする。『せるふ』とは、インターネットによく似たシステムで、契約者のマインドに組み込まれた端末から森羅万象にアクセスし、すべての情報を引き出し、好きなように書き換えＯ・Ｋな神をも凌駕するとんでもないシステムだった。元の世界に戻れたエコウは、『せるふ』の不思議な魔力を活かして占いで人々を助けていくことを思いつく。占い師として繁華街に立ち、そこでその後の人生を大きく左右する男と出会う。男の名は鳳竜虎。彼女に命を救われた鳳は、妻の五月雨五月と経営する喫茶・ミラージュのワン・テーブルを彼女に貸し出すことを決定。彼女は成り行きで喫茶・ミラージュ内で占い稼業「魔女の館」を始める。占いはオープン初日から長蛇の列を築く盛況ぶりを見せ、全国から大勢の恋に悩める子羊たちが救いを求めて参道するようになった。左団扇で笑いが止まらない鳳は感謝の意を表して彼女に「カリスマ占い師　ミス・ドラゴンタイガー先生」という屋号を寄贈する。
　エコウのもとには連日ありとあらゆる珍客が訪れた。そんな中に時の首相徳川家康の姿もあった。徳川家首相との出逢いは、彼女を更なる数奇な運命へと引きずり込む。世界的に超有名なテロ組織・秘密結社に嫌がらせを受け、困っていた徳川家は藁をも掴む思いで彼女を訪ねる。彼女は徳川家の申し出を断るが、或る条件と引き換えに徳川家の申し出を引き受けることになる。秘密結社を敵に回した彼女のその後の人生はスリリングかつスピーディーな展開で繰り広げられていく。秘密結社との戦いの中、エコウは彼女自身のあり方を問いはじめる。こうなったのもすべては森羅万象を意のままに操れる『せるふ』を手に入れたからじゃないのかと。彼女はいつしかかつての貧乏学生生活を懐かしみ、ある日突然、誰にも行く先を告げず四国へ旅立っていく。