《天井をささえる男をあなたがはじめて見たのは、あなたがまだ、M市に住んでいた時分である。
そのときあなたが起居していたのは、なるほど、確かに幽霊のひとりやふたりくらいなら住んでいてもおかしくない、旧く広い日本家屋であった。玄関を入り、うなぎの寝床のような長い廊下を左に折れ、そのどんつきに子供部屋は――あなたの部屋はあった。けれども、天井をささえる男をあなたがはじめて見たのは、その部屋ではない。そこからひとつ手前に位置する客間である。
天井をささえている。手を天に掲げている、でも、天井を押し戻そうとしている、でもなく、天井をささえている、とあなたが感得したのには、特段の理由があったわけではない。けれども、一度そう思ってしまったらもう、そうとしか思えなくなった。》(本文より)
tenjouwosasaeruotokonohanashi (Japanese Edition)
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