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    The Reason to Work (Japanese Edition)

    Por Kimio Kanan

    Sobre

    <作品の内容>
     大学を中退した石山君は、整体師になることを志す。
     専門学校に通い始め、意義のある勉強に喜びを感じ、将来への希望に満ちあふれていた彼だが、やがて思っていたのとは違う現実に直面する。
     彼の成長と周囲の人間模様を描く青春小説。迷い、苦しんだ末に、彼が思い至った事とは?
     第1版。
     文字数約81000字。

    <作中より引用1>
     あるとき僕は、寺井先生に、「日本整体・トレーナー学院」に入学するに際しての心配事を尋ねた。
    「僕もお世話になりたいと思ってるんですけど、学費もけっこうしますし、卒業後の就職が心配なんです」
     治療が終わったときに僕がそう言うと、寺井先生は穏やかにこう答えてくれた。
    「そうですねえ…、うちは確かに、それなりの学費がかかりますけど、でも、鍼灸の学校や、あんまマッサージ指圧師の学校、柔道整復師の学校と比べれば、安いと思うんですよ。あと…、やっぱりちゃんとした技術を学ぶには、それなりにじっくりと時間をかけることが必要ですよ。それでそうなると、お金がかかるのも無理はないと思うんですよね」
    「そうですよね…。確かに僕も、そうは思うんですよね」
    「卒業後はですね…」そう言うと、寺井先生は奥の部屋から雑誌を持ってきて、それを開いて僕に見せてくれた。「求人なんて、こんなにあるんですよ」
     その雑誌は整体やマッサージなどの業界の専門誌で、確かに、求人広告欄には多くの募集が出ていた。
    「ああ…、けっこうあるんですね」
    「そうですね。そんなに、就職に困ることはないと思いますよ」
    「はい」
    「あと、この仕事は結局、努力次第ですよ、石山さん」
    「え?努力、ですか?」
    「はい」
    「腕が良ければ、患者さんは来るんです。そうすれば、独立してからの収入とか、就職先に困ることもありません。やっぱり腕なんです。そして、そのためには、努力しないと駄目です。だから、努力次第なんです」
     僕は待合室へのドアをチラリと見た。次の患者さんはいないようだった。このまま話を聞いていたいと思い、確認したのだった。
     寺井先生は続けて言った。
    「うちの学校の生徒さんを見ても、やっぱり、やる気があって努力している人ほど、卒業後にうまくいってます。僕らは職人ですから、いかに腕を磨くか、そのための努力ができるか、そこが大事なんですよね、結局」
    「それはそうですよね」微笑しながら、僕はそう答えた。
     寺井先生とのこの会話をきっかけに、僕は「日本整体・トレーナー学院」への入学を決意した。
     本当に当たり前のことなのかもしれないが、僕のそれまでの人生においては、職業というものに対するこんなにシンプルで美しい考え方を聞いたことがなかった。
     腕だ。腕があれば客は来る。そのためには努力だ。
     その通りだ。そうでなきゃいけない。
     たとえば受験勉強などでは、何のために努力するのかが、よくわからなかった。実用性が不明なことを黙々と覚えなければいけないかと思えば、本番ではマークシートで解答を選んだりする。一体、僕らは何を問われていたのだろうか。自分が学んだことは、何の役に立つのか。そのあたりが、本当によくわからなかった。
     実際、肩書きを得るために受験勉強をし、そして、それが終わったら後はきれいさっぱり忘れてしまう、という人も多いのではないだろうか。
     もちろん、それもいいと思う。そうやっていい会社に入り、安定した人生を送ることも選択の1つだろう。
     しかし僕は、それを望んではいなかった。
     自分の学んだことは、やはり直接的に、役に立てたかった。
     そして、それで僕は生計を立てたかった。
     そんなふうに思っていた僕には、寺井先生の話は本当に、素晴らしい道しるべとなった。
     日本整体を学ぼう。
     そして、それで収入を得て暮らしていこう。
     腕のいい職人になるんだ。
     そのためには努力だ。
     勉強しないといけない。
     その後、僕は「日本整体・トレーナー学院」に入学した。
     試験はあったが、一般常識を問われる程度の簡単なペーパー試験と、面接だけだった。民間の専門学校であり、まだまだ生徒を増やしたいだろうから、試験に落ちるとは思わなかった。実際に僕は受かったし、落ちた人がいるという話も、それ以後に聞いたことはなかった。

    <作中より引用2>
     しかしながら、数ヶ月もするとやはり、学校に対する不満点も見つかってくるものだった。
     その日は金曜日で、僕と久住くん、マキちゃんで、授業のあと夕飯を一緒に食べることになった。近くにあった、タイ料理のレストランだった。アルコールも頼んでいた。
     マキちゃんが言った。
    「ねえ、轟先生の授業、ホントに最悪じゃない?」
    「ああ…、そうだねえ」僕は苦笑しながら言った。「でも、轟先生はつまんないだけで、まだいいと思うな、僕は」
    「え?そう」
    「うん。わけわかんないのは、大原先生」
    「ああ…。石山くん、ちょっと険悪な雰囲気になってたもんね…」
    「うん…。でも、あれ、僕が悪いかな?」
    「ううん」マキちゃんは首を振った。「悪くないと思う。石山くんは、普通だったと思う。しごくまっとうだった」
    「しごく?何それ?すごく、じゃないの?」
    「え?しごく、って言わない?」
    「聞いたことないなあ」
    「そう」
    「まあ、いいや」マキちゃんにそう言うと、僕は久住くんにも尋ねた。「久住くんはどう思う?僕、そんなに変な態度とったかな」
    「いやあ…」彼は苦笑いをした。「そんなことないと思いますよ」
    「そうだよねえ」
     その何日か前に、僕とその大原という、30代後半ぐらいの男の先生との間に、マキちゃんの言う「険悪な雰囲気」が芽生えたことがあったのだ。
     とはいっても、僕としては、何が悪いのかさっぱりとわからなかった。
     話を聞いてもわからないことがあったので質問した。先生は質問の意味を誤解し、見当違いの返事をした。だから僕は、それを尋ねたのではないと断り、再度同じ意味の質問をした。
     言葉づかいは丁寧だったと思うし、自分としても、生意気な態度を取ったとは思わなかった。ただ、意志の疎通ができなかったのだ。
     しかし、そのために何度か質問を繰り返していたら、そのうちに先生の表情が怒りを帯びてきた。
     僕はそこで、適当に「わかりました」と言って引き下がったのだが、最後に先生に「石山さんの質問はよくわからない」と言われ、ムッとしたものだった。
    「きっとさ…」マキちゃんは言った。「石山くんの方が、大原先生よりできるんだよ」
    「え?できる?」
    「うん」
    「どういうこと?僕なんか、まだまだ何にもできないよ?」
    「うん、今はそうだけど。きっと、できるようになると思う」
    「何で?」
    「だって、頭が良さそうだから、石山くんの方が」
    「そう?」
    「うん」
     正直、褒められて嬉しくなり、僕の顔は少しにやけていたと思う。
     僕はメニューを開いてマキちゃんに見せて言った。
    「何か飲む?僕、おごった方がいいのかな?」
    「え?ホント?」
    「いや、冗談だけど」
    「何だ」
     そこで久住くんが口を開いた。
    「でも、大原先生の授業は僕もわかりませんよ」
    「だよねえ」僕は言った。
    「僕は、わからないところを先輩たちに聞きますけど、みんな首を傾げてますよ」
    「うん、うん。だって、あの説明を聞いても、意味不明だよ。日本語として変だ」
    「日本語として変、ですか」久住くんは笑った。
    「ねえ、轟先生は?」マキちゃんが、彼女一押しの轟先生のことに話を戻した。「2人ともどう思う?轟先生の授業」
    「ああ…」僕と久住くんは顔を見合わせた。
     そして僕が、笑みを浮かべながら言った。
    「眠くなるよね」
    「うん」マキちゃんは力強くうなずいた。「何なの?あれ。教科書読ませて、大事なとこに線引かすだけって、すごく意味なくない?」
    「うん…。あれはもう、意味ないというか…、どこに線を引くか最初に全部教わって、あとは自分で本を読めば、授業しなくてもいいかもね」
    「はは、そうかも。授業、いらないかもね」
    「うん。でも…、轟先生の授業、関係法規だからね。どうやっても面白くないんじゃないの?」
    「でも、ちょっとぐらい、おまけの話とかがあってもよくない?私たちの将来に役立ちそうな話とか」
    「話すことがないのかなあ。でもさ、あの人、口下手そうじゃない?あれで精一杯なんじゃないの?」
    「口下手なのに、授業してるの?」
    「そうなんじゃないの?」
    「学長でしょ?」
    「学長でも、口下手は口下手でしょ。それにさ、学長っていっても、学校とか、NSTAは、やっぱり轟先生じゃなくて、寺井先生が動かしてる感じがしない?」
    「うん、そうかもね」
    「だよねえ」
     僕とマキちゃんの話が途切れると、久住くんも言った。
    「そういえば、先輩たちも何人か、そんなこと言ってましたよ。『やっぱり何だかんだ言っても、この学校は寺井先生のものだ』って」
    「へえー」マキちゃんが声を出した。
     この頃はまだ口に出さなかったが、寺井先生の授業も少しいい加減だと、僕は思っていた。
     寺井先生は大原先生と違って話が噛み合わないこともないし、怒り出すこともない。知識も経験も豊富で、話も面白い。しかし、どうにも話が脱線することが多く、授業が進まないのだ。計画的に授業をしているというよりは、自分がそのとき話したいことを話しているような印象で、正直、最後まで授業を終える事ができるのかと、僕は不安を感じていたのだった。 
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