さて、今回は、谷崎潤一郎の有名な『鍵』の「最終部」になるが、その内容は、次のようなものである。まず、夫(大学教授)は、五月二日の午前三時頃に亡くなっている。その前日の、五月一日の「日曜日」、この日は娘(敏子)が午後二時過ぎにやってきて、「今日は関田町(せきでんちよう)で風呂が沸いているのよ」と、妻(郁子いくこ)を外へと誘い出し、その留守の間に、娘(敏子)は、父親に頼まれていた妻の「日記帳」を捜しはじめ、そして、二階にあった十七日以後の妻の「日記帳」を見つけ出しては、夫(大学教授)はそれを読んで(或いは「読み聞かされ」)て、まさに致命的な「大きな衝撃」を受けて、その日の翌日(二日)の深夜「午前三時頃」には夫(大学教授)は、すでに亡くなっているのである。
そこで、この正月以来の日記、夫の「日記」と妻の「日記」とを仔細(しさい)に読み比べてみるならば、二人の闘争の跡は歴々と分るのであるが、それは、彼と私とが代る代る語るところを対比して見、その間に漏れているところを補って行けば、二人がどんな風にして愛し合い、溺(おぼ)れ合い、欺(あざむ)き合い、陥れ合い、そうして遂に一方が一方に滅ぼされるに至ったかのいきさつが、ほぼ明らかになるはずであり、夫と私とがこういう風な発展の後(あと)にこういう風な永別(えいべつ)を遂げるに至った事の次第を、今こそあけすけに跡(あと)づけてみたいのである。なお私としては、故人の生前には書き記すことを憚(はばか)っていた事柄がかなりあるので、最後にそれの幾分を書き加えて、過去の日記帳に締めくくりをつけたいという内容であり、興味や関心がありましたら、ぜひとも訪ねて見てください。
The world of Junichiro Tanizaki Key The last part (Japanese Edition)
Sobre
Baixar eBook Link atualizado em 2017Talvez você seja redirecionado para outro site