tokage (Japanese Edition)

《生命を、というより、生涯を賭して、グラン・ギニョールに溺れることのできる時代は、わたしの認識ではとうに終わっていて、なぜならば、好事家《こうずか》と見世物小屋のあいだにあったはずの「房飾りのついた赤い緞帳」という名の檻は、もはやこの世界ではずたずたに切り裂かれているからだ。然様、わたしは自分のことを、「エリート」というもはや失笑なしでは語ることのできない看板を掲げていること以外では、ごくごく一般的な人だと見做しているし、わたしが今手に提げている「矯正不能の犯罪者」という札、これだって、例えるのなら、前を走っていたリレーの選手から渡されたバトンのようなものにすぎない。かつて犯罪は太陽だった。そうかもしれない。それで、と、胸の前で両手を組みながら、続けてわたしは問おう。変わったのは人のほうか、人を取り巻く世界のほうか。もちろん、没落というものに限らず、人と世界が相互的に干渉し合いながら作り上げる門を、わたしたちはいつもくぐり抜ける運命にあるわけだ。兎も角、いつのまにかその門は、鉄製の堅固なそれではなく、生暖かい息を吐く赤黴色の荊でできた門へと変容《かわ》っていた。もはや太陽とはほど遠い。》（本文より）