toujin (Japanese Edition)

《適温というのは、要するに、半袖でいるときには寒く、長袖でいるときには暑く感じる温度のことなのだ、などと、男は考えたわけではない。ただ、ゲームセンターの空調に対して、率直に、「寒いな」と思った、それだけである。思った、というのも、あるいは正確ではないかもしれない。それは、思考というほどに太い針では、男の脳味噌を刺し貫かなかったと考えられるからだ。それほどまでに男はぼうっとしていた。あたかも、真っ赤に燃えた鉄を脳溝の迷路に流し込まれたかのように。》（本文より）