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    UNKNOWN: BAKUMATSUMATSURENNAIKATSUGEKI (Japanese Edition)

    Por KOBAYASHIFUSHO

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    ■ 三行
    1.天草四郎
    2.坂本龍馬
    3.バレンタイン

    ■ 冒頭サンプル

    0:1637/??/??

    1.海の上を歩いた。
    2.木の枝に止まった雀に呪文を唱え、動きを止めた。
    3.白い鳩を呼び寄せ卵を産ませ、中から絵と経文を出した。
    4.害を与えようとした役人に呪いをかけた。
    5.盲目の少女の視力を回復させた。
    6.海上に大きな光の十字架を出現させた。

     ――以上、奇跡が6つ。
     江戸前期、若干16歳で長崎は島原・天草の一揆勢を率いた伝説のキリシタン・天草四郎時貞が、短い生涯の中で起こしたと伝えられている奇跡である。
     かくして、以下の知られざる挿話はそれから230年後、同じ長崎にて幕を開ける。

    1:1867/2/12 22:00

     ぐぁらぁあん、ぐぉろぉおん。
     ぐぁらぁあん、ぐぉろぉおん。

     きたねえ鐘の音だな――と思ったら、自分の腹の虫が重なっていただけだった。
     ちくしょう、と悪態をつきながら、少年は狭い木箱の中で体を動かし、節穴から外の様子をうかがった。
     ガス灯の光に一瞬目がくらむ。しかしすぐに慣れ、近くにひしめく木箱の群れが視界に入る。どれも自分が隠れているのと同じ箱だ。
     ――人気はない。耳を澄ませてみても、浜風と波の音以外、何もない。
     胸をなでおろし、節穴から目を離す。とりあえず、鐘の音に混ざった腹の虫は誰にも聞かれなかったらしい。
    (――よーし、ついてる。今のおれは、きっとついてる)
     自分を鼓舞する。とは言え実際のところは、夜四つの鐘が鳴るような夜更けに真冬の港の積荷置場に立ち寄る者など、そもそもいるはずがない。ということで
    (ま、あのクソったれなフランス寺の鐘がうまいこと聞こえなかったってのが、何よりついてるって話だよな)
     そう思うことにした。
     フランス寺の鐘――大浦にある教会が鳴らす正刻の鐘だ。それは2年前の落成以来、2時間おきに一度も欠かすことなく、長崎の街全体に高らかに、軽やかに響き渡り、同時に少年の心の傷をちくちくとえぐり続けていた。
     少年は、逃げようとしていた。
     少年には何もない。汚れた薄手の着物1枚で、あとは見事な素寒貧。箱の中にあるのはわずかな藁と、体をくるむ新聞紙のみ。それも元々入っていた荷物――食い物ではなかったので海に捨てた――の緩衝材に過ぎない。非の打ちどころのない不良浮浪少年である。
    (うっ――さ、寒うぅっ!)
     刺すような隙間風が入ってきた。鐘の音のくだりで緊張が緩んだ体に、たちまち寒気が侵入してくる。
     慌てて体を強張らせようと力を込める――が、飲まず食わずでもう3日が経つ体は言うことをきかない。
    (我慢だ、我慢――!)と少年は叫ぶ。(明け方まで耐えりゃ、船に積まれる。積まれちまえばこっちのもんだ!)
     しかし、体は痺れる。瞼は閉じゆく。ひもじい。寒い。眠い。眠い。眠――。
     やべえっ!
     慌てて強く目を見開き、何か気を紛らわすものはないかと、抱えていた新聞を節穴から漏れる光にかざす。苛立ちながら目を凝らせば、広告欄と思しき場所に、近年この長崎にやってきた鳴り物入りの蒸気船・いろは丸で開催される船上博覧会の告知があった。
     見た途端、また悪態をついて舌打ちすると、少年は野良犬のように歯をむいて唸った。
    (ああムカつくぜ。銭臭えジジイ、ババアの匂いがプンプンしやがる。おれがこんな目にあってるのも、みんなこういうところに寄ってたかるような大人どものせいなんだ! クソったれ!)
     ――この理由《わけ》ありの浮浪児にとって、これ以上体を温めるに適した燃料はなかった。
     しかし、その時である。少年の耳がこれまた野良犬のようにぴくりと動いた。
    (足音――か?)
     息を飲み、節穴に耳を当てる。確かに足音がひとつ、小走りで近づいてくるのがわかった。
     げっ、と箱の中で苦い顔をした。
     どうか酔狂な通りすがりであってくれよ――。
     そうでなくても、とにかくこの箱にだけは近づくんじゃねえぞ――。
    (万が一この箱を開けようもんなら――泥棒だろうが、同じ密航者だろうが、鼻面ぶん殴って口に新聞紙詰めて海に蹴り落としてやるからな! とっととあっちに行きやがれ!)
     そんな祈り、もとい呪いもむなしく、足音は積荷置場でぴたりと止まると、少し右往左往して、少年が隠れている積荷の列の隙間にごそごそと入り込んできた。
     ――なんてこった。
     歯を食いしばって拳を固める――が、次の瞬間、それとは別の足音が2つ、遠くから近づいてくるのが耳に入った。
     おや、と違和感。その新たな足音は、今近づいてきている奴の足音よりもずいぶんと早く、荒く、そして重い。
    (大人か)
     と気付き、同時に
    (――てことは、もしかしてこいつ、子供《ガキ》か?)
     咄嗟に節穴に目を近づける。しかし同時に視界が真っ暗になり、箱が軋んだ。どうやらこの小さな客は、よりにもよって少年のいる箱にもたれかかったらしい。
     うんざりである。
     しかし、状況には見当がついた。どうせケチな悪さでも見つかって、大人どもに追われているノロマなガキに違いない。
    (――グズな奴だぜ)と少年は思う。(こんなどん詰まりに逃げ込んで、箱の蓋ひとつ改めようともしねえんだからな。そんなんで隠れてるつもりかよ。とっととそこからいなくなれ。海にでも飛び込みやがれってんだ、バカ野郎!)
     心の中で悪態をつくと、目を伏せ、がっちりと腕を組んで身を固めた。
    (関係ねえ、関係ねえ。おれは一切関係ねえからな。こいつがここで大人しくとっつかまれば、こっちにとばっちりは来ねえはずだ。無視無視。無視しかねえ)
     足音は近づいてくる。いかにも威圧的な大人どもの進軍だ。
     一方で箱はかたかたと小さく音をたてて震えている。いかにもか弱い子供の身震いだ。
    (ああ、もう! 早く逃げやがれ! 逃げろって言ってんだろうが!)
     少年は髪をかきむしったその時、箱の外から小さく――。
    「ああ――助けて、おばあさま――!」

    「――ちっ。逃げられたか?」
    「いや、知られた以上、逃がすわけにはいかんぞ」
    「おう。ここで片付けねば、あとが面倒だ」
     すらり、ちゃきっ、と刀を抜く音が聞こえた。
    (――何だよ、こいつらは! 物騒なのつれてきやがって!)
    「あ、あの――どちらさまでしょうか?」
    「うるせえ、クソったれ。ぶっ殺すぞ」
     箱の中での初会話だ。どちらが物騒かわかったものではない。
     いよいよ男たちが迫るにあたり、結局思わず箱の中に引っ張り込んでしまったわけだが、とりあえず少年の最初の感想は
    (――女かよ!)
     であった。
     引き入れる瞬間、黒々とした長い髪と、最近流行っている赤いリボンがたなびくのが目に入った。握った手首は細くしなやかで、声は小鈴のように澄んでいた。
     身体の大きさは小柄な自分と大して変わらず、年齢的には自分と同程度の少女だろうと察せられたが、口調にはどこか泰然とした品があり、まとっている厚手の長羽織には香が焚きしめられ、手触りも、誂えも上等だった。
    (――こりゃ上玉だな)
     少年は冷静に判断した。悲しいかな、判断するだけの経験があった。
     で、その上玉の少女がなぜこんな夜更けに人気のない港をうろついていて、しかもどう考えても危ない大の男どもに追われているのか。
    (――やべえ奴)
     素直に思った。しかし考えてみたら、それは向こうの台詞に違いない。常識的に考えて、積荷の中に入っている浮浪児がやばくないわけがない。
     ところが――意外にも少女はうるせえと言われて従順に黙ったきり、そのまま少年の胸に大人しく身を預けていた。
    (――? こいつ――)
     自分を恐れている様子はない。むしろ覚悟を決めたような落ち着きすら感じさせる。密着する胸から感じる鼓動は早かったが、それは寒空の下を懸命に駆けてきたせいだろう。その証拠に次第に落ち着いてきているのがわかる。
     しかし、それとすれ違うように、少女の火照りをうつされた少年の心臓が少しずつ、少しずつ高鳴っていく――。
     温かい。
     ほっ、と思わずため息を漏らす。すると少女は何を感じたのか、両手を静かに動かしたかと思うと、少年の身体をきゅっと包み込むように抱きしめた。
    (おっ? いっ? ええぇっ?)
     さらに、動転する少年の背中を優しくさする。凍てついた頬に、柔らかい頬をぴたりと寄せる。耳を熱い吐息で包む。
     ――温めようとしている。
    (――やべえ奴)
     再び思った。しかし1度目とは異なっていた。少女の行動は意味不明だ。なのに、少年の凍てついた瞼が、瞳が、その奥が、じわじわじわっと融けるように熱くなっていく。
     わけあって人を嫌というほど抱いてきた――抱かされてきた少年だったが、こんな温かい抱擁は初めてだった。
     耐えかねたように、少年の手が動き出した。少女の体を求めて体が勝手に動き出す――が、その時。

     ***

    以上のサンプルは、本文約52,000字中の3800字になります。また、本文は横書きになります。
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