老境に入った父・進は、息子の純一に自分の子ども時代の思い出を語り始めた。70年前、自分が過ごした霞ヶ浦湖畔の村、安中(あんじゅう)。田舎の百姓家で暮らした少年の日々は、彼の記憶のひだに刻み込まれ、長い年月を経て、息子の聞き書きによって現代に蘇ることとなった。
進少年の父は医師であったが、革命と第一次世界大戦の始まったロシアで医院を開業していた。そのため母は息子をつれて安中の実家に戻り、そこで暮らさざるを得なかった。子供ながらに居候の悲哀を味わうことになった進は、そこで体験した様々な出来事を早熟な大人の目で観察し、記憶に蓄え、また絵に描いて記録に残していたのである。
そこで語られているのは、電気も水道もない、ほとんど自給自足の、茅葺き屋根の農家で暮らす人々の姿であった。日の出前に起きて、朝露を踏んで畑仕事をし、お天道様に手を合わせ、家では仏壇と神棚と虚空蔵菩薩をおがみ、井戸で水を汲んでかまどで飯を炊く。人形流し、さなぶり、お庚申様、祭文語り、お蚕(かいこ)さまの繭つくり、狐の嫁入り、おままごとに魚捕り、相撲と芝居の興行、どんどん焼き。それらは、遙かな昔からこの国で人々がずっと営んできた暮らしの形であり、今は忘れ去られてしまった世界である。
少年の日々の思い出が大人の目線で語られ、民俗学的に貴重な資料でもあるこの本は、私たち現代の日本人が忘れてしまった美しい日本の伝統と風習を思い出させてくれる、珠玉の一冊である。
Ushinawareta mura no hibi (Japanese Edition)
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